「働き方改革」で見落とされている「働きがい」

 米国の心理学者、フレデリック・ハーズバーグは、職場で従業員の不満足につながる要因(衛生要因)と、満足度を上げる要因(動機付け要因)が別であるとした「二要因理論」を提唱した。「衛生要因」は、会社の方針と管理、監督、身分、作業環境、安全、給与などを指す。これは「働きやすさ」と関係するものだ。一方、「動機付け要因」は、仕事そのもの、達成、承認、責任、成長の可能性などで、「やりがい」と関係する。この理論によると、衛生要因をいくら整えても、不満足の解消になるだけで、満足度向上にはあまりつながらない。

 こうして考えてみると、現在進められている「働き方改革」の多くは、この「働きやすさ」やハーズバーグの言う衛生要因にばかり焦点が当てられ、「やりがい」や動機付け要因の観点からの改革が欠けていると言える。

 様々な企業の調査結果を見ると、「働き方改革」の結果、「働きやすさ」は確かに上がったが、従業員の仕事に対する「やりがい」はむしろ下がり、総合的な「働きがい」は改革前よりも下がってしまったというケースも珍しくない。

改革でやりがいが低下する「ぬるま湯職場」

 私たちは、「働きやすさ」と「やりがい」の高低により、職場を四つのタイプに分類している(図参照)。働きやすくやりがいも高いのが「A いきいき職場」、働きやすさは低いがやりがいがあるのが「B ばりばり職場」、働きやすいがやりがいがないのが「C ぬるま湯職場」、働きやすさもやりがいもないのが「D しょんぼり職場」と定義した。

 これに基づいて、今の「働き方改革」のムーブメントを考えると、何が起きているのかを把握しやすいと思う。

■図 「働きやすさ」×「やりがい」の四つの職場タイプ
■図 「働きやすさ」×「やりがい」の四つの職場タイプ

 「働き方改革」は「働きやすさ」を追求しようとする動きであり、この図では下の象限から上の象限への移行を意図している。大事なのは、スタート時点がA~Dのどの職場であるかだ。

 もともとやりがいの高い「B ばりばり職場」は「働き方改革」によって「A いきいき職場」を目指せるが、改革のスタート時点でやりがいの低い「D しょんぼり職場」が「働き方改革」を進めると「C ぬるま湯職場」が生まれやすい。

 「C ぬるま湯職場」は様々な弊害を生む。仕事へのモチベーションがほとんどなくても、居心地がいいため、従業員は何となく居続けてしまう。惰性が蔓延し、自発的な行動や改善は全く期待できない。このような環境では、やる気がある人は白けてしまう。ある意味で、「D しょんぼり職場」よりもたちが悪いと言える。

 努力の結果、以前よりも悪い職場ができあがってしまっては、何のための改革だったのかわからない。「働き方改革」に取り組み、「働きやすい職場」を実現することは大切なことだが、それ以上に従業員の「やりがい」を高めることが重要であることを、企業の方々はぜひ留意していただきたい。

(次回に続く)

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2018年9月 日経BP社刊
マイケル・C・ブッシュ&GPTW調査チーム(著)

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