かつてファンドマネジャーであった筆者が理解する一般論から言わせてもらえば、実は、分散投資に関してはマンガーの旗色が悪いのです。仮に、同じくらい偉大な会社が多数あるとして、これらのなかから1社当たり等金額で10社に投資するのと100社に投資するのとでは、期待できるリターンが同じなのに、100社に分散投資するほうがリスクを低く抑えられます。

 マンガーなら「偉大な会社はそう多くない」と反論するかもしれませんが、理屈の上では、「偉大な会社をもっと多く探して、分散投資を拡大するよう、努力を惜しむな。そのほうがより良い運用になるのだから」と言われたら、マンガーの負けでしょう。この理屈を、もともと自然科学系の学部に進学し、数理に強いはずのマンガーが理解できないはずはありませんが、おそらく彼には集中投資で勝負したいという抑えがたい闘志があるのでしょう。それに加えて、他の多くの投資家がしばしば間違えることを知っていて、学び続ける自分が熟考して投資銘柄を選ぶなら、十分勝てるという自信があるのだと思います。

一般的には多くの企業に分散投資した方が、リスクを低く抑えられるのだが…。(写真:PIXTA)

いつでも出動できるように現金を持つ

 年金運用や投資信託のファンドマネジャーは、その立場上、自分に任された運用資金ではフル・インベストに近い状態を維持するのが正しい姿勢と言えますが、これに対してマンガーやバフェットは、偉大な会社を適正価格以下で買えるチャンスが到来したときにいつでも買い出動できるように、ある程度の現金を蓄えておこうとします。

 筆者の経験からしても実感を伴ってわかるのですが、資金の運用者としては、現金を保有してチャンスを待つには相当の胆力が必要です。もしも、自分が運用するファンドがフル・インベストでない状態のときに市場全体の株価が上昇すると、これについていくことが容易ではないからです。常に市場平均と比較して評価される世の平均的なファンドマネジャーにとっては、現金ポジションをできるだけ持たない方が無難なのです。

 それに対してマンガーは、いつ来るかはわからないが何年かに一度訪れるチャンスで現金保有の威力を発揮すれば、市場平均のパフォーマンスをはるかに上回ることができるという勝算を持っています。だからこそ分散投資に頼ることもしません。彼はいつもこう言います。

 「みなの真似をしていたら、平凡から抜け出すことはできない」

 とはいえ現実の運用業界では、みなの真似からおそるおそる逸脱してみるものの、“平凡”であるところの市場平均に負けるプレーヤーが圧倒的に多いのが実情なのです。この点でも、投資家としてのマンガーは、恐ろしく強情で、闘志に溢れた勝負師だと言えるでしょう。

次回に続く)

デビッド・クラーク(著)/林 康史(監訳)/石川由美子(翻訳)/山崎 元(解説)/日経BP社/本体1600円+税

 バフェットの唯一無二のパートナーとしてバークシャー・ハザウェイを支えてきた伝説の投資家、チャーリー・マンガーの珠玉の名言集。

[主な内容]

■PART Ⅰ 投資で成功する考え方 安直な儲け/立ち去る勇気/グレアムの間違い/間違って価格づけされた賭け/大きく賭けるとき……

■PART Ⅱ 企業、銀行、経済 大恐慌/銀行規制/大きすぎて潰せない/自由市場という愚行/ ウォール街の悪行/デリバティブの危険性……

■PART Ⅲ 事業と投資に関する哲学 バイ・アンド・ホールド/極端をゆく/大きく稼ぐ方程式/二種類の会社/どこに賭けるか/流動性……

■PART Ⅳ 人生、教育、幸福の追求についての助言 一つずつ/無知をわきまえる/アイデアを壊す/年をとるということ/無用な心配/自分に嘘をつく……

山崎 元(やまざき・はじめ)氏

写真:村越将浩

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、国家公務員共済組合連合会資産運用委員会委員、株式会社マイベンチマーク代表。1958年北海道生まれ。1981年東京大学経済学部卒業、三菱商事に入社。その後、外資系金融機関など12回の転職を経て現職。『ファンドマネジメント』(きんざい)、『全面改訂 超簡単お金の運用術』(朝日新書)、『確定拠出年金の教科書』(日本実業出版社)など著書多数。伝説的投資家チャーリー・マンガーの金言・直言を紐解いた話題の新刊『マンガーの投資術』(デビッド・クラーク著、日経BP社)では解説を執筆。