正社員の働き方や処遇の特徴は、長期的安定雇用、査定付き定期昇給、昇進機会の提供といった点であろう。さらに加えるなら、異動・配置の無限定性や年功序列的な昇進管理といった特徴も指摘できるだろう。いずれにせよ、こうした仕組みは、企業にとって忠誠心の高い、画一的な社員を生み出しやすく、かつての高度成長期には適していたといえる。しかし、高度成長期からすでに30年以上たち、今日のような加速度的にイノベーションが創出されていく時代には、画一的で自社以外の世界を知らない、視野の狭い社員ばかりの会社からはイノベーションは生まれてこないだろう。

低い日本の労働生産性

 もちろん、この間、日本企業が何もしないで手をこまねいていたわけではない。2000年初頭から、日本企業の多くはそれまでの年功主義から能力主義、成果主義へと人事制度の軸を大きく転換していった。個々人の成果を評価する目標管理制度や、成果を出す人材の行動特性で評価する手法であるコンピテンシー、従業員がやりたい仕事に手を挙げられる仕組みとしての社内公募や社内FA、役割や職務のレベルに応じた賃金(役割・職務給)の導入等が急速に進められてきたのである。問題は、これだけ成果や能力に焦点を当てた人事制度の導入が進んだのに、日本の労働生産性が、なぜ国際的に見て低水準にとどまっているのだろうかということである*6。

*6 日本生産性本部「労働生産性の国際比較」(2017年版)

 その背景には、サービス産業の生産性が低いことやIT革命に乗り遅れたことなどが指摘されている。しかし、より、根本的な要因は、正社員(特に、ホワイトカラー)の働き方が、生産性向上につながっていない点であろう。生産性は、投入に対する産出の度合いで測定される。働き方改革で進められている長時間労働の見直しは、投入量の削減であり、産出量が一定であれば単純に生産性は向上する。しかし、産出を付加価値でありイノベーションととらえると、より重要となるのは、付加価値を生み出せるような投入資源の“質”である。最近では見えない資産(無形資産)、特に人的資本への投資が生産性にプラスの影響を与えるという研究が進んでいる*7。端的に言えば、投入資源である人材の質の向上が重要となるのである。

*7 川上淳之 帝京大学経済学部准教授「生産性が高まるには?-経済学がデータから明らかにした方法-」(日本生産性本部 生産性レポート Vol. 1 2016年6月)

 もちろんこれまでも、日本企業は人材育成を重視して、職場でのOJTや集合研修としてOff-JTを持続して行ってきた。厚労省「能力開発基本調査」によると、2008年のリーマンショック以後、従業員一人あたりのOff-JT費や自己啓発支援は伸び悩んでいるものの、それでもここ数年はOff-JT費で約2~3万円、自己啓発支援で約4000~5000円と安定的に推移している。

 ただその一方で、各種調査では、重要な経営課題として人材育成がうまくいっていないことを挙げる企業は多い。問題なのは、いままでの人材育成が、付加価値を生み出す人材の育成につながっていない点である。これまで企業が個人に提供してきた教育が、時代の変化に合っていない。異なった組織や仕事の経験等、イノベーション創出につながる成長機会の提供や場づくりができていない。そこに、政府や一部の企業が副業を進めようとする理由がある。

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