経団連は「課題多く、推進する立場ではない」

 経団連は、実行計画の発表を受けて2017年12月に、「副業・兼業については、社員の能力開発、人材開発といったポジティブな側面もあるが、兼業による仕事のパフォーマンスの低下、情報漏洩のリスク、総労働時間の管理方法、社会保険料や雇用保険料の負担のあり方など課題も多く、(中略)、旗を振って推進する立場ではない」としている。実際、企業対象の調査(2017)*2を見ると、副業を推進あるいは容認という企業は2割強(22.9%)にとどまり、約8割の企業は「社員の過重労働・長時間労働を助長する」ことを理由に反対している。

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*2 リクルート「兼業・副業に対する企業の意識調査」。2017年1月実施。帝国データバンクが所持している企業データより全国の中小・中堅・大企業をランダム抽出(社員規模は10名以上)した2000社。回答企業1147社。

 もっとも、全ての企業が副業に反対しているわけではない。例えば、賃金水準が低く、なかなか人手が確保できない中小企業では副業は人材の確保にも定着にもつながる、有効な人材活用戦略となる。別の企業調査*3によると、副業・兼業・フリーランスを認めている企業は、全体の18.0%であったが、100~300人規模では、25.9%と高くなっており、今後認めることを検討している企業も10.3%と1割を占めている。企業規模により副業の戦略的位置づけも異なることがうかがわれる。

*3 日本経済新聞社「平成28年度産業経済研究委託事業 (働き方改革に関する企業の実態調査)報告書」(平成29年3月 対象:マクロミルモニタ 33~73歳の男女 経営企画・事業企画と経営管理の部長職以上 有効回答数: 206サンプル)

 一方で、転職サイトを利用する20~40代の正社員対象の調査*4では、正社員の88%が副業に「関心がある」と回答している。その理由としては、「収入を得るため」(83%)と最も多く、「自分のスキルアップのため」(22%)、「自分のキャリアを広げるため」(18%)、「人脈を広げるため」(15%)といった回答にはるかに差をつけている。

*4 エン・ジャパン調査。2018年3月28日~4月25日、日本最大級の総合求人・転職支援サービス『エン転職』
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政府・企業・働き手の間で意識のズレ

 ここには、明らかに政府と企業と働く個人の3者の間で、副業に対する意識のズレがある。政府は、副業という本業にとらわれない柔軟で流動性の高い働き方を通して、様々で異質なノウハウが出会い、それによりイノベーションが創出されると考えている。しかし、働く側は、中長期的な自らのキャリアやスキル向上よりも、目先の収入に関心がある。働き方改革で長時間労働が是正されると残業手当が減ることへの懸念もあるだろう。また、企業側は、そもそも副業により本業でのパフォーマンスの低下やかえって長時間労働になることへの懸念、企業情報の漏えいリスクを警戒している。

 政府が強く推進しようとしている副業だが、副業が増えることは、イノベーションを創出し、日本の生産性を高めることにつながるのだろうか? そして、正社員という働き方はどうなっていくのだろうか?

 「正社員」という言葉は1980年版「労働経済の分析」で初めて登場したといわれる*5。その背景には、この時期からパートタイマーという働き方が徐々に増え始めたことがある。旧労働省の「労働力特別調査」や「就業構造基本統計調査」が「正規従業員」という調査区分を設定したのも81~82年のことである。正社員と非正社員では働き方や処遇が異なるため、区分して調査をする必要が出てきたのである。

*5 久本憲夫京都大学教授「正社員の意味と起源」(季刊 政策・経営研究2010 vol.2)

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