Dr.フランク ヴァリザー(以下ヴァリザー) モータースポーツ部門から提案を行い、2015年3月の役員会で最終決定されました。現在のレースのレギュレーションでは、911は本来のパフォーマンスを発揮できない。その解決策としてリアアクスルより前にエンジンを置く、という結論にたどり着きました。52年もの間リアエンジンだったわけですから、変更はもちろん簡単なことではありませんでしたが、優秀なエンジニアチームの働きもあって実現することができました。

エンジンは4リッター水平対向6気筒で、最高出力はリストリクターにもよるが510PS。
WECやアメリカのIMSAシリーズにワークスマシンとして参戦する

 911といえばRRなわけですから、反対の声もあったのでは?

ヴァリザー もちろん懸念する声はたくさんありました。しかし、レギュレーションのこともあり、そのままでは勝てるチャンスがなかったのです。昨年はターボエンジンとNA(自然吸気)エンジンとのBoP(性能調整:Balance of Performance)がうまく管理されていませんでしたが、今年はそれもいいバランスで、適切なタイミングでの判断だったと思っています。

ミッドシップ化した最大の理由は空力性能の向上を狙ってのもの。エンジン搭載位置を前方に変更したおかげで、大型のリヤディフューザーが装着可能になった。またリアタイヤの摩耗も軽減されたという

私が担当するのは「息をしている」GTだ

 ヴァリザーさんは、911GT3など一部の市販モデルの開発も担当されているわけですが、そちらへの影響はないのでしょうか

ヴァリザー 市販モデルがミッドシップなるかということであれば、それはないでしょうね。ただ、レースモデルとGT3やGT3RSといった市販モデルは相互に影響があります。同じエンジニアがレースモデルと普及モデルの両方の開発を担当することもあります。例えばGT3の新しいエンジンの燃料供給システムはレースカー技術そのものが使用されています。

 ポルシェでレースをするということは、常に勝つことを求められると思いますが、それに対するプレッシャーはないのですか。

ヴァリザー レースの一番良い事であり、一方で良くない事でもありますが、それは明確な結果が出ます。誰がポールポジションを取るのか、誰が一番速いのか、それだけです。これはビジネスの世界にも通じる事ですが、いつも完璧な準備ができるというわけではありません。与えられた時間内で常に正しい判断が求められます。チーム内部の調整、他ブランドとの競争、そして緊張感のなかで簡単な事ではありませんが結果を出す。競争とレースカーの技術が好きですね。

 ポルシェもフォーミュラEへの参戦が噂されていますが、それについて関心はありますか?

ヴァリザー Aspirated GT guy, not my topic.(私の担当は“息をしている” GTです。関係ありませんね)

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 ポルシェというメーカーは、優れたエンジニアリング能力をもっているだけでなく、実はとても商売が上手い。いま世界的に流行している“カスタマーレーシング”(レース車両を顧客に販売し、そのサポートなどで収益を得る)というビジネスモデルを一般的に広めたのもポルシェによる功績が大きい。「911」というモデル1つをとっても、そのレースカーの頂点にWECなどに参戦する「911RSR」があり、日本のスーパーGTなどに参戦するGT3マシン「911GT3R」、ワンメイクレース用の「911GT3カップ」などがあり、一方でナンバーの付く公道走行可能な「GT3RS」や「GT3」を用意。レースカーと市販車を一連のものとして開発し、これらすべてのモデルを販売して利益を生み出している。

 WECのLMP1からの撤退し、フォーミュラEに参入ということだけが注目されがちだが、時代の流れは無視せずEVもやっておきながら、一方で現在の本丸であるGT(911)もきっちりやる。ポルシェのビジネス戦略は、“右手に浪漫、左手に算盤”というわけだ。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「911ターボプラス」としていましたが、正しくは「911ターボS」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2017/09/07 10:40]