国際税務論争の現状

 ここで、現在、国際税務に関してどのようなルールがあるのかを確認してみたい。

(1)移転価格税制

 まず、各国が定める「税法」がある。これは、国内法であり、原則として、その国で収入を得た会社は、どの国の会社でも対象となる。なかでも、国際税務にとって重要な税法は、「移転価格税制」だ。

 移転価格税制とは、タイの工場で作ったクルマをアメリカの親会社に売るといったように、多国籍企業がグループ内で国際的な取引を行う場合に、その取引価格を、取引相手が第三者であったならつけたであろう価格(独立企業間価格)にしなくてはならないという規則だ。タイの工場の例で考えると、タイからの輸出価格を高くすればタイ工場が儲かって、逆に安くすれば、アメリカの親会社が儲かることとなる。

 すなわち、取引価格を上下させることで、利益がタイからアメリカに(あるいはその逆に)移るのだ。そこで、タイとアメリカに税率の差があれば、企業としては、税率の低い方に利益を寄せたいという動機が生まれる。グループ企業であることを生かして、そのような利益移転をすることを規制するのが移転価格税制だ。

 この税制により、グループ内の会社がそれぞれ、どのような役割(機能)を果たし、どのようなリスクをとっているかが詳細に分析され、各会社のあるべき所得の取り分(課税所得)が計算される。あるべき所得(独立企業間利益)よりも申告した所得が少ないと、移転価格税制により、あるべき所得との差額分を課税されてしまうのだ。この法律は、多少の違いはあっても現在ではほとんどの国で導入されている。

(2)タックスヘイブン対策税制

 国際税務のもう一つの要となる法律として通称、「タックスヘイブン対策税制」がある。これも多くの国で国内法として導入されており、税率が低い国に子会社があった場合、その課税所得を親会社で合算して課税する、というものだ。例えば、日本の会社が税率12.5%のアイルランドに子会社を持っていた場合、アイルランドの利益も日本の親会社で課税されるという仕組みだ。

 なんだ、それなら、低税率国に会社を作っても税金が減らないじゃないか、と思ったかもしれない。しかし、これには適用除外規定があり、低税率国の子会社にしっかりとした事業実態がある場合には課税はされない。

 移転価格税制とタックスヘイブン対策税制に共通する考えは、低税率国で実際にそれだけの利益が上がる合理的理由(事業実態)がなければ、そういった国に利益を付け替えることは認めないというものである。逆に言えば、低税率国にそれだけの事業実態があれば、税金の支払いが少なくてもどこの国も文句は言えないのである。

(3)租税条約
 続いて、国際税務のルールには「租税条約」がある。これは、国と国との条約で、両国に関係する税の問題をどのように対処するかを決めるものだ。「租税条約」は国内法である「税法」よりも通常、優先適用される。

 例えば、日本の税法では、技術使用料などのロイヤルティを支払う際には、支払う側が先にそのロイヤルティの額から税金分を差し引いて(源泉徴収)支払い、それを税金として納めることになっている。しかし、日米租税条約の下では、日米間でロイヤルティの支払いをする際は、源泉徴収額はゼロとなる。

 国際税務に関して明確な強制力のあるルールは、上記の「税法」と「租税条約」だけである。しかし、その他に、日本などいわゆる、先進諸国を中心に構成されるOECDは、国際税務に関する指針(ガイドライン)を出している。OECD加盟国は、国内の税法を決める際にこのガイドラインを尊重しているし、非加盟国も参考にしているので、OECDガイドラインは国際税務ルールづくりに対して大きな影響力を持っている。

*9月8日公開予定の「海外企業に比べ多額の税を払う日本企業のなぜ?」へ続く。

【著者プロフィール】

大河原 健(おおがわら・けん)
ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)移転価格・経済分析グループ代表
国際税務・移転価格の黎明期である1990年代初頭より、数々の日系・外資系企業にアドバイスを提供。国内外の著書、寄稿及び講演多数。日本における本分野の第一人者として国内外の多国籍企業からの信任が厚い。学習院大学非常勤講師。博士。

小垨 由紀子(こもり・ゆきこ)
ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)移転価格・経済分析グループ シニア・ディレクター
20年以上の経験をもつコンサルタントとして、多国籍企業における様々な移転価格問題に従事。サービスやロイヤルティといった無形資産取引や、グローバルな組織再編に伴うタックスプランニングを多く手掛ける。

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