タックスプランニングの話に入る前に、まず、税金の基本的な計算方法の確認から始めたい。簡略化すると、税金は、企業の売上から費用を引いた後の「所得」に対して課される。

【ケース①:前提となる税務処理】 
売上高100億円、費用80億円、税率30% →税引き後利益 14億円

 上記のケース①だと、売上高100億円の会社において、税金の計算上、費用として認められる「損金算入費用(材料費、人件費、研究開発費、広告宣伝費等の全てのコスト。ただし、一定以上の交際費等、税金の計算上、費用と認められないものは除く)」が80億円だったとすると、100億円から80億円を引いた残りの20億円の所得に対して税金が課されることとなる。

 日本の税率は2016年現在、約30%なので、20億円×30%で、6億円の税金を納めなくてはならない。最終的に企業に残る利益(税引き後利益。サラリーマンの手取りに当たる)は、売上高100億円-費用80億円-税金6億円=14億円となる。

【ケース②:旧来の節税例】
売上高100億円、費用90億円、税率30% →税引き後利益7億円

 ここで、この会社が税金を前述の6億円より少なくするために、旧来の節税を行おうとしたとする。例えば、費用を増やして課税される所得を減らすとしよう。仮に費用を10億円増やして90億円にすると、所得も10億円減るので、税金は半額の3億円になる。

 しかし、これだと、税金は減るものの、費用を余分に10億円も使うことになる。もちろん、使ってもいないコストを費用として計上したら、脱税でお縄となってしまうし、必要もないものに使ってしまえば、税金は3億円減っても、10億円無駄なコストがかかって、かえって損をしてしまう(余談だが、よく、自営業者は会社の費用につけられるからいい、と言う人がいるが、使ったうちの一部を取り戻せるというだけで、全部タダになる訳ではない。自営業者もサラリーマンも使えばお金はなくなるのである)。

 最終的にケース②で企業に残る利益(税引き後利益)は、売上高100億円-費用90億円-税金3億円=7億円となり、ケース①よりも少なくなってしまう。

 他にも節税の方法はあるが、基本的には、売上を小さくするか、費用を大きくするかのいずれかである。

【ケース③:国際的タックスプランニングの例】
売上高100億円、費用80億円、税率15% →税引き後利益17億円

 国際的タックスプランニングは、欧米、特に米国の企業が発達させた税コストの削減手法であり、その代表的な方法は、低税率国の利用である。

 ケース②で触れたように会社が国内で節税をして最終利益を増やすことは難しいが、この会社が税率の低い国で事業をして同じ所得を得た場合は、必然的に税金が低くなる。下記の例で言えば、所得はケース①と同じく20億円だったとしても、税率が半分になれば、当然、税金も半額となる。最終的にケース③で企業に残る利益(税引き後利益)は、売上高100億円-費用80億円-税金3億円=17億円で、三つのケースの中で最大となる。

 ここでは仮に日本の税率の約半分の15%としたが、世界にはもっともっと税率の低い国もある。そこで、グローバル展開する米系多国籍企業は、なるべく所得をこういった低税率国に集めるような仕組みをつくっている。もちろんこうした方策に対しては、後述するとおり、様々な規制があるが、一つ、重要なのは、こう言った多国籍企業は一般的に、タックスプランニングをしない企業よりもコンプライアンス意識は高く、徹底して、法の認める範囲でのプランニングを研究していることだ。

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