自動駐車の併用で危険回避
そもそもクルマは金属製部品だらけ。発熱させないためには、受電装置と送電装置の上下位置を正確に合わせることが重要になる。日産はミリ波レーダーやカメラを使い、自車の位置を正確に検知する自動駐車技術を既に開発。送電システムに応用する考えだ。
電磁誘導は原理がシンプルなため、ワイヤレス給電を普及させる上で最も現実的な方式と言える。だが欠点もある。受電側と送電側が近接している必要がある点だ。充電できる距離は、東芝やロームのようなモバイル端末向け装置の場合で数mm、日産のクルマの場合で10cm程度という。
近接していなくても給電できる手法として研究が進んでいるのが、マイクロ波方式だ。給電に使うマイクロ波は電波の一種で、周波数が1ギガヘルツから10ギガヘルツ程度のものを指す。波長が短く、真っすぐに進む特徴があるため狙った方向に電気を送れる。
京都大学の篠原真毅教授は、その研究の第一人者。「そもそも電波はエネルギーを伝えるもの。テレビ電波の場合は映像や音声といった情報以外のエネルギーを使わずに捨てている」(篠原教授)。このエネルギーを捨てずに使うのがマイクロ波方式だ。
篠原教授は、パナソニックと共同で電池の要らない医療用センサー向け、三菱重工業とは電動車椅子向けのワイヤレス給電の開発を進めている。
米スターバックスは普及に先駆けて米英の200店舗超にワイヤレス給電用送電器を設置した。米調査会社IHSは、ワイヤレス給電に対応する機器の2025年の世界出荷台数が、2015年の14倍に当たる約28億台に増えると予測する。無線LANや携帯電話網の整備で情報のワイヤレス化はほぼ実現した。国際規格の統一といった課題を乗り越えれば、給電のワイヤレス化が普及する日も遠くはない。
企業名 | 内容 |
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東芝 | 出力15ワットでの給電に対応にしたワイヤレス給電向けの制御ICを開発。熱の発生を抑えて安全性を高めた |
ローム | 制御ICの性能評価用のサンプル製品の出荷を開始。拡張性の高さが特徴で、無線LANを活用した新サービスも視野 |
日産自動車 | EV(電気自動車)向けのワイヤレス給電システムを開発。自動駐車機能を活用し、異物の発熱を避ける取り組み |
京都大学 | 送電器と受電器が接触していなくても充電できるマイクロ波方式を研究。パナソニックとは電池の要らない医療センサーを開発 |
スターバックス | サービス事業者として、ワイヤレス給電の採用に前向き。米英の200店舗超に、ワイヤレス給電の送電器を設置。対応店舗は順次拡大予定 |
IKEA | ケーブルをつながなくても充電できるランプやベッドサイドのテーブルなどを、日本でも今秋投入へ |
(日経ビジネス2016年6月13日号より転載)
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