発熱ロスを抑えて出力アップ

 出力アップを阻む原因となっていたのが、送電装置や機器に搭載した制御IC(集積回路)で発生する「熱」だ。電流を回路に流すと、金属の抵抗によりエネルギーロス(熱)が生じる。「50度くらいまで熱くなった端末は、低温やけどのリスクもある」(堀参事)。

 そこで東芝は、制御ICのレイアウトを見直したほか、基板表面に特殊な構造を採用。抵抗値を従来より65%低く抑えることに成功した。

 これにより最大15ワットの出力でも安全に給電できる制御ICが完成。電子機器端末メーカー向けに今春から出荷を始めた。10ワットで給電している時の表面温度は最大43度と、一般的な製品より約10度低いという。

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 半導体大手のロームが2015年に発表した制御ICは、充電以外の機能をプラスしやすい「拡張性の高さ」が売りだ。例えば、充電を開始した時に信号音を鳴らしたり、送電装置と機器の間に何らかの異物が入り込んだ時に音で知らせたりできる。こうして拡張できるのも、「関連部品の多くを自社開発しているから」(民生・スマートデバイス戦略部の鈴木紀行課長)。単に充電するだけではなく、それ以上の付加価値をつけることで革命を起こしたいという。

 課金システムはその一例。想定するのは、次のようなシーンだ。

 ある営業マンが昼食を取ろうとレストランに入った。テーブルに置かれた送電装置の上にスマホを置くと、液晶パネルの画面に「30分で200円」などと書かれた充電メニューが表示された。希望の項目を選ぶと、装置がクレジットカード会社との通信を開始。課金と同時に充電が始まった──。

 法規制(電波法)さえクリアできれば、「実現はそう難しくない」(鈴木課長)という。ロームではこの他、充電中のモバイル端末に広告やクーポンを配信するといった使い方も想定している。

 ワイヤレス給電が生きるのは、モバイル端末の充電にとどまらない。

 神奈川県厚木市にある日産自動車の先進技術開発センター。大学キャンパスの跡地を活用した緑あふれる構内の実験室で、EV(電気自動車)「リーフ」が駐車位置を目指してゆっくり後退していた。停車するや、近くに置かれた送電器のランプが緑に切り替わる。

 「日産は自動運転に力を入れてきたのに、充電だけ手動のままでは不便でしょう」。EV・HEV技術開発本部の有満稔氏は、EVにワイヤレス給電を導入する意義をこう説明する。有満氏が思い描く未来は、乗車している人が気付かぬうちに充電が始まり、終わっているという世界だ。

 クルマの充電に求められる電気の出力は、スマホ向けとは桁違いの6キロワット。出力が大きくなるほど危険性も高まるため、乗員や歩行者の安全確保が何よりの課題となる。

 危険の一つに、クルマと送電装置の間に金属製の異物が入り込むことがある。空き缶などに一気に大量の電流が流れれば、熱を持ち危険だ。

 こうした事態を防ぐため日産は、充電用のコイルとは別に、異物検知専用の小さなコイルを数十個、送電側に配置した。送電装置とクルマの間に異物があった場合、両者の間を行き来する磁場に変化が起きる。この変化を小さなコイルで検出する仕組みだ。

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