日本人には理解しづらい中国のビジネス流儀

 両社の主張を聞くと、代理店の関係が入り組んだきわめて複雑な状況であることが明らかとなった。NIPPON PAYと提携を発表したアルファクス・フード・システムは日本の正規アクワイアリング・パートナーではないことを知らなかったと回答し、和民などで稼働実績が存在するにもかかわらず非正規ルートだということがありえるのかと疑問を呈している。

 アリペイのような新しい決済サービスが普及していない日本では、この状況はなかなか理解されないだろう。アリペイなど中国のウェブサービスの多くはオープンプラットフォーム戦略を取っているため、無数に存在するアクワイアリング・パートナーが提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用することで、第三者が容易に関連サービスを開発することが可能なのだ。高木氏も現在、提携する中国ライセンスホルダーにアントフィナンシャル本社との調停とサービス安定継続を依頼しているが、別のライセンスホルダーと提携することも視野に入れているという。

 モバイルインターネットと端末さえあればどこでもサービスを導入できるというきわめて自由度の高い環境なのだ。この自由度こそが中国でのスマホ決済サービスの爆発的拡大をもたらした最大の要因だが、一方で決済のような信頼性が求められる分野では危険にも感じる。しかし、アリペイは事前確認ではなく、AI(人工知能)を活用した取引チェックシステムで安全を確認していると自信を見せる。すべての取引をAIが監視しており、不正取引はリアルタイムで検出し、取引をストップさせる仕組みが導入されている。

浙江省杭州市にあるアントフィナンシャルの本社

 筆者は今年7月、浙江省杭州市にあるアントフィナンシャル本社を訪問したが、そのロビーにはAIによる不正取引検出ログを表示するディスプレイが置かれていた。「*時*分 某某(使用した人の氏名) ダフ屋行為が疑われるため取引をストップ」といったログがリアルタイムで表示されていた。

 「実はNIPPON PAY経由での取引は数件しかありません。日本メディアには取り上げられて目立つ存在でしたが、実際の取引件数はほとんどゼロだったのです。もし取引件数が増えれば、AIによって自動的にストップがかかっていたでしょう」とアントフィナンシャルの王氏は話す。

 事前確認を徹底する日本社会はいわばホワイトリスト型、すなわち安全性が完全に担保されたと確認しなければサービスは展開しないのが一般的。一方、中国はブラックリスト型で、まずはサービスを展開しつつ、問題がある部分のみを取り締まるという考えが主流だ。アリペイなど決済サービスでも同様の発想だ。中国で実店舗でのモバイル決済が本格的にスタートしたのは2014年。わずか3年で世界を席巻するにいたったのは、ブラックリスト型の発想によって、スピード感を持ってサービスを拡大し続けたことが大きい。

 ただし、AIによって取引の安全性が担保されたとしても、中国的発想による仕組みが日本人にとって分かりづらいのは事実だ。アントフィナンシャルには日本社会が理解できるような形でサービスの仕組みや安全性を発信することが求められている。