決定木を使った予測が面白いのは、株価の構成要素が「見える化」される点だ。「一般的にAIを使った統計分析では結果が複雑な計算式で示され、ブラックボックスになってしまいがちだ。ただ、それだと資産運用の世界では誰も見向きしない。可視化されてこそ相場局面の解釈も可能になる」。2011年からこの研究に取り組む瀬之口潤輔シニアストラテジストはこう話す。

 翌月の相場の騰落を9割も当てられればすぐさま資産運用に導入できそうだが、ことはそう簡単ではない。

 瀬之口氏は昨年から100社以上の機関投資家に予測に関するリポートを配信している。その結果、投資家が運用の参考にし始めたようで、今年に入って的中率は7割程度に落ちてきた。多額の運用資金を持つ投資家が予想を信じて動くと、その動き自体は予想の根拠に含まれていないので、結果的に予想が外れやすくなる。

「降りる」への対応も

 「その壁すら乗り越えるAIがいずれ登場する」と瀬之口氏は考えているものの、それには時間がかかりそうだ。AIは将棋や囲碁で人に勝てるようになった。だが、投資をゲームとして捉えるとマージャンに近い。参加者の数が多く、勝利を最短距離で目指さずに「無理に勝負しない(降りる)」といった選択肢もあるからだ。様々なステークホルダーの思惑まで先回りできないと投資AIの勝率は高まらない。

 経済指標には月次発表のものが多いので三菱UFJモルガン・スタンレー証券は1カ月後の騰落を予測している。だが、技術的には日次でも可能である。三菱UFJ信託銀行では翌日のTOPIX(東証株価指数)の騰落を当てるAIを開発。分析の対象は日次から月次まで約200種類の経済指標だ。今年3月から自己資金数億円を投じたパイロットファンドでこの機能を活用中だ。

 ファンドの投資対象は50銘柄強の高配当株で、AIがその日の相場下落を予想した場合は、先物を使ったヘッジ取引を増やす。AIに2008~15年までの過去データで投資シミュレーションを試みたところ、全ての年で投資収益はプラスだった。

 同社の岡本訓幸資産運用部課長は「AIに任せるのは局面の判断のみ。銘柄選択には従来通り人間のアナリストも介在するので、運用コストが劇的に下がることはない」と説明する。AIによる資産運用が導入されるとファンドマネジャーやアナリストが不要になるのではとささやかれているが、そうした事態は当面起こりそうにもない。

 これまでもクオンツと呼ばれる金融工学に基づく運用を実践してきたが、AIの特徴である学習機能「ディープラーニング」により精度が高まった。まずは機関投資家からの資金を集め、将来は投資信託としての販売も検討する。

AIが相場の“潮目”に気付く
●局面が変わると、予測の基になる指標も入れ替わる