「嗅球」が難病診断の鍵

 臭いを突破口に難病を早期発見しようとする試みは、がん検査以外にも広がる。人間が臭いを感じる能力を分析することで「目に見える症状が出る前にパーキンソン病を診断できるかもしれない」と話すのは、東京都健康長寿医療センターの仙石錬平・神経内科医長だ。

顔断面を撮影したMRI画像。パーキンソン病患者の嗅球(右)は健常者(左)よりも小さい。 出所:東京都健康長寿医療センター

 パーキンソン病の患者は臭いを感じにくくなるという。そこで仙石医長が注目したのは「嗅球」という組織。鼻腔上部にあり、嗅細胞で得た情報を脳に伝達している。この組織の大きさが、パーキンソン病患者と健常者とでは異なるのではないかと考えた。

 MRI(磁気共鳴画像装置)を使って細かく嗅球を撮影。その体積を導き出したところ、パーキンソン病患者の嗅球は健常者のそれよりも明らかに小さいことが分かった。12種類の臭いを当てる嗅覚検査と組み合わせてみると、嗅覚障害があり、かつ嗅球の体積が小さい人とパーキンソン病との相関関係もはっきりと出た。

 従来のパーキンソン病の診断は、「静止時にもふるえが起きる」とか「顔の表情が硬くなる」といった運動症状を手掛かりにしていた。つまり、こうした症状が出ないと識別できないわけだ。嗅覚検査と嗅球の体積を求める方法は、運動症状が出ていなくても診断できる可能性がある。

 仙石医長はソフトウエア会社と協力して、嗅球測定を簡略化できるシステムの開発を進める。「今年度中には完成させ、無料配布したい」と意気込む。

 千葉北総病院の宮下副院長によれば、古代医学において臭いは病気を判断する重要な手掛かりだった。現代医学では触診や視診にその座を譲ったが、臭いの可能性は改めて認知されつつある。人類を苦しめる様々な病気と戦ううえで、臭いを使った新手法が強い武器になりそうだ。