がんの早期発見に光明

 N-NOSEの特徴は、早期のがんを、簡単かつ安価に検査できることだ。

 PET-CT(コンピューター断層撮影装置)やマンモグラフィーなどを使った従来の検査方法は精密である半面、高価な医療機器を使わざるを得ない。比較的手軽な診断方法としては、がんの増殖に伴って増える血液中の物質を測定する腫瘍マーカーがある。だが、こちらは感度が低いのが課題だ。

 一方、N-NOSEはがんの進行度合い(ステージ)によらず高い感度を示す。従来の検査では発見しにくかった早期のがんも見逃さない。さらに、検査に使う線虫は、寒天と食料の大腸菌があれば短期間で大量培養できる。尿を採取する手間も微々たるもの。高価で結果が見通せないという、従来のがん検査の課題を解消できる可能性を秘める。

 現状では、専門の研究者がいないと線虫による検査はできない。世界中でこの手法を活用できるようにするには、自動解析装置の開発が不可欠だった。そこで広津社長は医療機器の開発に強みを持つ日立製作所と手を組んだ。

 日立の試作機で核となるのは「自動撮像・画像解析システム」だ。強い光を当ててシャーレを撮影し、反射の度合いで線虫の分布を計測する。反射が強く、輝度が高い部分には線虫が密集している。その場所が尿に近ければ、がんの可能性が高いと判断できるわけだ。これにより、手作業で線虫の数を数える手間を省ける。

 HIROTSUバイオサイエンスは今後、日立と実用化に向けた共同研究を開始する。「装置は改良の余地がまだ多くある。2020年までに装置の完成と量産化を完了させ、世界中にN-NOSEを普及させたい」と広津社長は意気込む。

 臭いによるがん検査で、線虫の先輩に当たるのが犬だ。その歴史は古く、日本医科大学千葉北総病院の宮下正夫副院長によれば1989年には英国で最初の報告があったという。

 7年前からこの方法に着目してきた宮下副院長は、がん探知犬を育成するセントシュガージャパン(千葉県館山市)に委託し、9割以上の確率でがん患者の尿を識別できる5頭の探知犬を育成。今年5月から大規模な検証に乗り出した。山形県金山町と協力し、検査に同意した40歳以上の町民約1000人の尿を犬に識別させる試みだ。既に100人を超える尿サンプルが集まっている。自治体と組んで大掛かりに検証する試みは「おそらく世界初」だと宮下副院長は胸を張る。

 10人分の尿のサンプルを入れた箱を用意し、がん患者の呼気を嗅がせた探知犬がチェックする。尿と同様、呼気にもがん特有の臭い物質は含まれているため、これが手掛かりとなる。犬が立ち止まった箱にはがん患者の尿が含まれている。これを繰り返すことで患者を特定していく。実用化に向けて、より広範な検証を進める考えだ。

線虫によるがん検査を効率化
●日立製作所が試作したシステム
早期のがん発見に有効
●がんのステージごとの腫瘍マーカーの感度
(がんと判定されるべきものを正しく判定する確率)
出所:HIROTSUバイオサイエンス