(前編はこちら)
「私大の両雄」としてライバル関係が何かと話題になる早稲田と慶應。受験、学生生活、就職など、実際のところはどうなのか。現役学生や卒業生への取材、各種統計データの収集・分析により、徹底比較を試みた『早稲田と慶應の研究』という新書を著したオバタカズユキ氏が、現役生、OB、OGを集めて改めてそれぞれの思いを聞き出した。早稲田大学の座談会、後編をどうぞ。
「ワセジョ」のイメージは妄想の産物?
オバタ:せっかく早稲田の新旧両世代の女性がそろったので、「ワセジョ」の話をしてみたいと思うのですが。今の「ワセジョ」がファッション誌などでも活躍していると聞くと、親世代はみんなびっくりするんですよね。以前は「ワセジョ」というと、地味で、ダサくて、理屈っぽいというネガティブイメージが付きまとっていましたから。この本にもワセジョのことを書きましたが、早稲田OGの小暮さんは読まれてみてどう感じました?
OG小暮:私の時もきれいな人はけっこういたんですよ。
オバタ:実際は昔からいたでしょうね。例として適切かどうかわかりませんが、遡れば、あの吉永小百合だって「ワセジョ」なわけですから。
OG小暮:ただ、話をしてみると、中身はけっこう気概があったり、男勝りなところがあったりする。今考えると、そういうのがワセジョなのかなと思ったりしますが、学生時代はあまり意識していなかったですね。
写真奥左から、福西さん、上原さん、浪山さん、手前右から、オバタカズユキ氏、小暮さん、徳永さん
オバタ:ご自身もワセジョという意識はなかった?
OG小暮:あんまりないですね。所属していたのがオール早稲田のサークルだったから、他大の女の子と比べられたりする状況でもなかったので。
オバタ:そうか。これって、結局のところ男目線の問題なんですね。
OB徳永:ですね。「ワセジョ」って、たぶん僕らの頃から使い始めた言葉なんですよ。早稲田というのは、女子のすごく少ない大学っていうイメージが強くて、特に政経なんかだとほとんど女子がいなかった。だから、教育や一文の女子みたいに、ある程度のボリュームと存在感が出てくると、「早稲田の女子」というくくりで、他とは異なるグループとして、あれこれ言いたくなったんだよね。とくに文学部は、キャンパスもちょっと離れてるから、若干、妄想も入っちゃってるんだけど、なんか面倒くさそうな子が多いかな、みたいなイメージがあって。
オバタ:議論したらやられそうみたいな?
OB徳永:あと、現代アート好きとか、芸術作品みたいな服着てるとか、髪の毛カリアゲにしてるとか。
オバタ:そんな女子、早稲田にいた? 私の知る限り、文学部のキャンパスに行ってもそんなのいなかったよ。
OB徳永:だから、キャンパスが離れてるから、実際のところはわからないんだって。ただ、一文は、そういうイメージだったの。
オバタ:なんでそんな妄想をしてしまうのか? 一文のキャンパスって、本キャンの男にとって、行くのに敷居が高かったの?
OB徳永:そうじゃないけど、行かなかった。ほとんど用がなかったし。
学生福西:サークルに一文の女子はいなかったんですか。
OB徳永:いや、一文の女子もいたけど、本キャンのサークルって、女子大の女子がもう大量にいたから。
学生福西:ワセジョの入るスキがないくらい?
OB徳永:ないない。
オバタ:徳永さん、一文の女子に何かうらみでもあった(笑)?
ワセジョとキラ女に揺れる男心
オバタ:(学生たちに)今の話を聞いてみて、現役の皆さんはどうですか?
学生福西:「ワセジョ」って、今は女子の間でも、男子の間でも、普通名詞ですよね。お店でも、ちょっと女子が好きそうなものを油そばに混ぜたりして、「ワセジョメニュー」って謳ってるし。私の勝手なイメージでは、「ワセジョ」っていうと、油そばとお酒が好きで、ちょっとサバサバしているといった感じですね。
OB徳永 ああ。じゃあ、「ワセジョ」って言われて、別に嫌な気はしない?
学生福西:マイナスのイメージはないです。たしかに、お嬢さまが好きな人とか、可憐な女の人を目指している場合は、サバサバしていて、ちょっと大雑把なところがあるっていうのを、マイナスにとる人もいるかもしれないけど、私としてはぜんぜんそんな感じじゃない。マイナスの言葉と受け取ったことは一回もないし、ワセジョにネガティブな意味があったってことも、この本を読んで初めて知ったくらいなので。
オバタ:今の早稲田の女子はみんなそう言うよね。「ワセジョ」と言われるのはぜんぜん嫌じゃないって。むしろ自分から発信してる。
学生浪山:今、「ワセジョ」を悪口として使うことはないですね。
オバタ:ぜんぜんない? たとえば議論になった時、早稲田の女子は、他大と比較したら、たぶん強い子多いじゃないですか。それで「やっぱりワセジョだもんな」みたいな文脈では使ったりしない?
学生浪山:ワセジョか、ワセジョじゃないかってそんなに分けないからなあ。僕がオール早稲田のサークルしか入ってないせいかもしれないけど。
学生上原:インカレサークル(他大学と合同で活動するサークル)に入っていると、ワセジョか否かって、やっぱ違いますね。それはわかります。
オバタ:どういう違い?
学生上原:えっと、なんていうのかな、うーん……。自分が1年生の新歓の時に、明らかにメイク慣れしている感じのキラキラした女の子がいたから、聞いてみたら、「早稲田じゃないです、インカレです」って言っていて、「あ、これがインカレ女子か」みたいなのはありました。なんかもう1年の時からから何かを積んできている感じで。ワセジョの場合は、最初は高校から受験が終わって上がってきましたみたいな素朴な子が多くて、人によってはあるとき急にメイクでキラキラ感を出してきたりするんですけど、その変遷が見られるんですね。でも、インカレ女子の場合はいきなりキラ女がドンと来る。
学生浪山:あと、ワセジョが強いっていうイメージは、たしかにありますね。
学生上原:インカレ女子と比べると、どうしてもワセジョはそう。
オバタ:その「強い」っていうのは、わりとポジティブなことなの、男にとっても?
学生上原:うーん……かなあ。
学生浪山:僕はポジティブだと思うな。
オバタ:そこは割れるわけね。
学生浪山:それはやっぱり、どっちが好みかっていうのがありますから。
なぜ慶應のほうが企業評価が高いのか?
オバタ:今回の本の取材では企業の人事担当の人たちにもいろいろ話を聞いたんです。すると、思ったよりも、早稲田と慶應を違うふうに見ているのがわかった。総じて言うと、早稲田はいつまでも子供でいたい、慶應は早く大人になりたがっている。ベンチャーは早稲田のほうを評価している向きがあり、保守的な企業は慶應のほうを評価している。
就職先の大半を占める保守的な企業が、早慶をどう見ているかっていうと、早稲田の中にも、もちろん優秀な人はいるんだけど、ばらつきがすごく大きくて、慶應のほうは粒ぞろい。とびぬけて面白いやつは早稲田のほうにいるものの、当たりはずれが大きいから採る側にとってはリスクがある。慶應のほうがアンパイだって、みなさん判で押したように言う。
それで、全体的なレベルは慶應のほうが高いという見方が多かったんだけど、それはなぜだと思う?
学生上原:この本にもあったけど、慶大生は、1、2年でサークルを切り上げて、早々に就活に入っていきますよね。それに対して、早大生は3年の秋の早稲田祭までサークルに力を注いでいる。そういう取り組みの違いみたいなのもあるんじゃないですか。
OB徳永:就活の時期の問題ね。
OG小暮:たしかに、早稲田の場合、早くから社会に向けて準備することを良しとしない傾向が昔からありますよね。私たちの頃には、1年生の時から資格とかいろいろ取ってる子がいると、すごいなあっていうより、どちらかというと軽蔑するような感じで見られてました。そうやって社会に出るのに背を向けて8年生までいる人も多かったわけで……。だから、いつまでも子供でいたいっていうのは、すごくあてはまるなあと思って。
学生浪山:僕が本を読ませていただいて思ったのは、慶應の人は、つねに慶應ブランドを背負ってるっていうか、慶大生としてこんなことはできないとか、こんなことをしたら慶應の恥だとか、そういう意識がものすごくありそうなんだけど、早稲田生は、そこがそもそも薄くて、それはたぶん、会社に入った後も同じなのかなって。入った後で、業績を上げるにしても、慶應出身の人は、慶應を背負って頑張るんだろうけど、早大生は、たぶんそうならない。
学生福西:つるまない、群れない早大生ですからね。
学生浪山:就活でも、早稲田出身っていう看板はあるかもしれないけど、別に自分は自分だからっていうのがある。何かに追われてやるわけじゃないから、まだこのままでいいって人はやらないし、ああしなきゃ、こうしなきゃっていうのもない。その分ワセダ全体としての評価にはつながらないのかもしれないです。慶應はたぶん、慶應だから頑張らなきゃ、慶應として見られるから頑張らなきゃって感じでやるのかなあって、ちょっと思いましたね。
逆境を早稲田らしさで受け流す
オバタ:企業評価は基本的に慶應のほうが高い。それが事実だとして、当事者としてはどう思う? これからおそらく就職活動をすると思うし、3年生は、もうしてると思うんだけど。
学生福西:(浪山さんに)してますか(笑)?
学生上原:浪山さんはたぶんしてないと思うんですけど(笑)。
オバタ:してないの?
学生浪山:してないです。
オバタ:3年の6月だよ、まだ何もしてないの?
学生浪山:何もしてないです。
オバタ:やるねえ! もうだいぶ進んでるよ、慶應の3年生は。
学生浪山:でも、まわりを見ても、「インターン行った?」「いや、まだこれからだけど」「行く?」って感じで。「まあ、申し込むだけ申し込んだ」「俺もだ」「あ、そっか」みたいな。「え、おまえ、ぜんぜんやってないの?」っていうふうな感じで言われたことはないです。
オバタ:早稲田らしいって言えば早稲田らしいけど。
学生浪山:あと、志望している業界のバイト先でインターンみたいなことをやっていて、そこでかなり実践的な仕事もさせてもらっているので、インターンはしなくていいかなあという思いもあって。業界を絞るためのインターンってよく言われるから、それなら別にやらなくていいかなっていう甘えが、僕の中にありますね(笑)。
オバタ:2年生はどう? 慶應と比べて評価が低いってことに関して、「え、そうなの? やべ」っていう気持ちは起きなかった?
学生上原:別に、自分でやるしかないっていう(笑)。
オバタ:どこまでも早稲田らしいね。
学生福西:結果的に見て、慶應の人のほうがいい人が多かったってことなんでしょうけど、要は面接の時に私をアピールできれば別にいいんで。入りは早稲田でも、しゃべってみればわかっていただけるかなと。
オバタ:こっちはやっぱりワセジョだね。
早稲田と慶應、どちらも受かったら慶應にする?
オバタ:慶應との比較の話で、もうひとつ聞いてみたいことがあって。早慶両方受かった場合、以前は早稲田を選択するほうが多かったのに、90年代の後半に逆転が起きてるんですよ。それ以降、同類の学部に受かった場合、慶應のほうを選ぶ傾向がずっと続いている。学生さんで、早慶両方受けた人はいますか?
学生一同:(首を振る)
オバタ:実際、両方受ける人ってそんなに多くないんだよね。科目が違うし。
学生上原:でも、私文(私立文系)だとけっこう、早慶乱れうちみたいな子とかいましたよ。
オバタ:早慶乱れうち? 国立じゃなくて?
学生上原:そうです、私立文系に絞って、早慶を片っ端から受ける。あと、帰国子女とかは英語が元からできるので、数学ができなければ、もう早稲田慶應こだわりなく、どんどん受けて。それでも、早稲田と慶應どっちも受かった場合は、みんな慶應に行きますね、やっぱり。就職が強いっていうイメージがあるから。
オバタ:就職が理由?
学生上原:だと思います。高校生だと、ほんとにあんまり情報がないんで。慶應、三田会、就職強そうみたいなイメージで、両方受かったら、やっぱり慶應行っとこうと。
オバタ:実態はそこまでの差はないんだけどね。
学生福西:でも、雑誌とかではけっこう、慶應のほうが就職いいみたいなのが多いですよね。この本もそうですし。
OB徳永:就職がいいとか、三田会が強いとかって、高校の頃から考えるんだ。
学生上原:ほんと、人づてですけどね。あとは、親も関係してくるんじゃないかなと思って。子供が早稲田と慶應、どっちも受かったら……。
学生浪山:僕、親が慶應なんですけど。どうだろう。両方受かったら、たぶん、慶應に行かされたんだろうなあ。そんな気もしますけどね。僕の場合は、中学部で早稲田を受けさせてもらって。
OB徳永:学院だもんね。
学生浪山:それなんかでも、早稲田だからってところもあったっぽいですね。「早稲田だったら、まあ、いいか」みたいな。
OB徳永:それは、わかる。実は俺、慶應、蹴ってるのね。
学生上原:え、そうなんですか?
OB徳永:一浪の年に、早稲田3つと、明治、法政、慶應、あと、もう二浪はできないからもっとランクの低いところも受けて。つまり、早稲田に行きたかったわけですよ。明治、法政は、なんとなく早稲田とイメージが似てるから。慶應を1個だけ受けたのは、早稲田に全部落ちちゃった場合、明治や法政に行くと、絶対にコンプレックスを持ちそうで、それを払拭できる唯一の学校が慶應だったんだよね。
学生上原:それは、慶應が滑り止めだったってことですか?
OB徳永:80年代は明らかに早稲田優位って、世間も思ってたと思うよ。
学生上原:ああ、そうなんですか。
OB徳永:ただ、当時の早稲田は「学生1流、校舎は2流、教授は3流」って言われてて、実際に入ってみても、授業の状況がひどかった。だから、慶應に行ってたら違ったのかなって、一瞬思ったことはあるよね。
OBに嫌われてもコネがなくなる心配なし!
OG小暮:早稲田って、三田会みたいな、役に立つつながりは薄いですよね。稲門会とかも、上の世代の飲み会みたいな感じになってるから、その意味では弱いかもしれないけど、早稲田らしさでのつながりっていうか、シンパシーみたいなものは、社会に出てからもけっこう生まれてくるものだなあと感じてて。
オバタ:それは、はたから見ていて思いますよ。早稲田どうしって実は仲がいいって。三田会とか稲門会っていう意味じゃなくて、早稲田どうしで盛り上がってる場面を、私自身かなり見てるんで。
OB徳永:おんなじ大学出てるっていうだけで喜んで、盛り上がって、結局、稲門会と一緒で、飲んで終わりなんだけどね。
オバタ:OBどうしで盛り上がって、そこから仕事につながったりとか、プライベートの問題で誰かキーパーソンを紹介してもらうといったような、人脈の広がりが生まれたりしないんですか?
OG小暮:いやあ、逆にそういうのはちょっと嫌ですね。
OB徳永:僕も、これまで、同じ大学という個人的コネクションで仕事につながったっていうのはまったくないし、そういうのは嫌っていう感覚が強い。
オバタ:先輩方は同じことを言ってるけど、学生さんはどう?
学生浪山:たしかに僕たちも、OBの方と飲むというときに、ここで嫌われたらコネがなくなっちゃうかも、とかそういう考えはないですね。
OB徳永:ないよな。
学生浪山:まったくないです。
学生上原:上とのつながりがそこまで強くないから。
学生浪山:いい子ぶる必要もない。
OB徳永:ちょっと早稲田っぽくなってきたな(笑)。
愛校心はけっこう薄め? だが、そこがいい!
学生福西:入学式の時に総長が、「早稲田は群れない」ってことを、三田会を引き合いに出してお話しされてたんで、ああ、対抗心を燃やしてるんだなあと思って聞いてました。
オバタ:慶應を引き合いに出しちゃうところがちょっと情けないよね。学生は醒めて見てるでしょ。
学生上原:ほとんど寝てますね、入学式は。
学生福西:最初の入りは、そのインパクトがありましたね。で、なんか、校歌を歌わされるんですけど。
学生上原:歌わされる?
学生福西:はい。私、そんなに早稲田に入る前からユーチューブで校歌を確認したりとかしてなかったんで、全然わからないじゃないですか。で、一部にすごく盛り上がってる人たちがいたんで、ああ、内部生かなあと。
OB徳永:僕、浪人してるときからレコード聞いてましたよ。
学生福西:え、ほんとですかぁ!?
オバタ:だって、座談会の前に徳永さんとやり取りした時に聞いたんだけど、徳永さん、現役で早稲田を落ちた時、大隈銅像の下の土を持って帰ったんだよ。
学生福西:甲子園!?
オバタ:そこまでかよ、と同世代だけれども思いました。
OB徳永:早稲田以外の大学に行く気がなかったんでね。でも、愛校心っていうのは、実はそんなにないからさ、いればいるほどなくなっていって。入る前、入ったころが一番ピークだったかな。
学生上原:そういう人は多いですよね。
OB徳永:ああ、やっぱり? なんかその、愛校心がなくなっていくほうが早稲田っぽい感じがするんだよね。
学生福西:私もそんな気がします。
オバタ:あ、現役大生でもその感覚わかるんだ。福西さんは、早稲田が第1志望?
学生福西:第2志望です。東大に落ちて、早稲田なら、ま、いっかなあと思って、浪人せずに入りました。
オバタ:これまた軽い感じだね。
学生福西:入った時はすごく怖くて。というのも、早稲田は慶應と違って、あんまり熱烈な愛校心があるイメージじゃなかったんですが、入学式で盛り上がってたから、やっぱりそういう大学なのかなと思って。そうしたら、実はそうでもなかったっていう。
OB徳永:だよね、意外に醒めてるんだよね。
学生福西:意外に醒めてますね。
学生浪山:僕は、中等部に入った時には、そんなに「早稲田~!」っていうのはなかったですけど、いるうちに、早稲田が好きにはなりましたね。
一同:ああ!
学生浪山:早稲田でよかったし、好きだなあって思う。僕なりの早稲田愛はあります。
学生福西:じゃあ、ユルい感じで好きってことで。
オバタ:新旧それぞれに驚きの連続だった座談会。本日は本音の語りをありがとうございました。
Powered by リゾーム?