峰岸真澄CEOが語るリクルート流のAI経営
リクルートが持つ“宝の山”のデータを解析、人類を豊かに
何十倍ものレバレッジが効くようになる
峰岸 真澄(みねぎし・ますみ)氏
リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO
1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。2003年執行役員。2004年常務執行役員。2009年取締役兼常務執行役員。2011年取締役兼専務執行役員。2012年から現職。立教大学経済学部卒。 (写真:菊池くらげ、以下同)
『AI経営で会社は甦る』を執筆した経営共創基盤の冨山和彦代表取締役CEOは、AI経営を実践できている企業としてコマツとリクルートを挙げた。御社のAI経営について説明してほしい。
AI経営という文脈で、2つの重要なポイントがある。
1つは、既存事業をディスラプト(破壊)する事業体は、自社ではできない前提に立って、その事業をどう獲得して内部に取り込むかというポイントだ。2つ目は、とにかくこれからは非科学的な、属人的な、解明されない能力でお金が儲かることはないというポイントだ。
後者についてはもう少し詳しく説明する。我々のビジネスモデルは、個人が欲しい情報、例えば求人や住宅関連など様々なジャンルの情報を提供し、個人(消費者)と情報の提供者であるクライアント(広告主)を結びつける、マッチングプラットフォームだ。リクルートが介在することで、消費者、クライアントの双方にとってのメリットを最大化するビジネスモデル。リクルート社内では「リボンモデル」と呼んでいる。
このリボンモデルを、データを軸にして、かつ大量のデータによってレバレッジが効くようになっていくとすれば、これは優れたエンジニアの力で収益が左右されるということだ。10年前、20年前だと、優れた営業が収益の多くを支えていたが、これからは優れた営業をそのまま維持しながらも、優れたエンジニアによって、これまでの何十倍ものレバレッジが効くようになる。
カニバリを気にせず新事業を立ち上げてきた
求人専門検索エンジンを運営する米インディードの買収は、2012年に行ったが、まさにそれだ。以前から我々は社内のカニバリを気にすることなく、新事業を立ち上げてきた。
会社としては、自由にお互い競争させて、優れたもの、ニーズにマッチしたものが自然と消費者に選ばれ、残っていくと考えている。
長期的に見れば、インディードは国内の既存のサービスにとっては破壊者になり得るだろう。しかし、我々は3年前に「2020年にHR(人材)ビジネスの分野でグローバルナンバーワン、2030年には販促の分野でもグローバルナンバーワンになる」というビジョンを掲げた。我々がフォーカスする領域で、トップレベルの優れたエンジニアをいかに集めるか、AI時代にそうしたエンジニアの力でレバレッジするための(収益)エンジンを持っているかが重要だ。インディードは、世界のトップエンジニアたちが活躍する舞台になっている。買収した理由の一つはそこにあった。
「トップレベルの優れたエンジニアを、いかに集めるかが重要」
買収して5年、インディードの売上高は12倍に。
もともとポテンシャルがある企業だが、テクノロジードリブンでスタートしているので、どうしてもマーケティングやセールスが二の次になる。我々が持つマネタイズノウハウを提供したことで、急成長を実現できたと考えている。
我々は、もともと西欧的な人事制度・仕組みを採用してきた。いわゆる成果報酬型を導入している。ミッションを与え、そこへの達成に応じて報酬が出る。
年功序列ではない。個人の活躍度にフォーカスするシステムになっているので、AIというテーマで、優れた人材にジョインしてもらえるかを考えたときにも、人事制度を柔軟に適応させていくことができた。
また、エンジニアにおいては優れた人材をリスペクトする形で優れた人材が集まる環境を作ることが肝であると分かった。2015年に、AI研究所(Recruit Institute of Technology=RIT)を設立し、米グーグルのトップリサーチャーだった、AIサイエンティストのアロン・ハレヴィ氏を招聘することにした。いま彼の下には10人ほどの優秀な人材が既に集まりつつある。
重要なのは、企業が持つポテンシャルもそうだが、そういう人材から見た魅力的なデータ、そして魅力的なミッション、機会を提供できるかどうかに尽きる。
そういう意味で、ハレヴィ氏はAI研究所の所長として大きく2つのミッションを持っている。1つは、AIをベースにした事業ができないかという彼の夢を追いかけていくことだ。
もう1つは彼も使命として感じていることだが、研究所は研究しているだけではダメだということ。やはりいまの事業に何らかのパフォーマンスをすぐに返さなければならない。その考えが我々にもマッチすると思い、仲間に加わっていただいた。
リクルートに眠っている宝のような大量のデータをAIで解析して、人類を豊かにすることに活用していく。例えば、リクルートには、マンションを買った、旅館に泊まった、飲食店を予約してこういう料理を食べた──といったデータがある。
ハレヴィ氏も言っているが、我々は生活に直結するデータを数多く持っている。あらゆるカテゴリーの情報をAIで分析することで、個人の行動をより便利に快適にする情報を、最適なタイミングでレコメンドできるようになるかもしれない。
人類を豊かにするというミッションを実現するためには、いろいろな進化が必要になる。彼の最も得意なジャンルでもあるのだが、まずデータベースの基盤を整える必要がある。よりスピーディーな分析を可能にするためにも、データベースの構築は非常に重要だ。彼にはいま、まさにその点で高いパフォーマンスを発揮してもらっている。
データ統合ツール群を無料公開
高いパフォーマンスの一端を紹介してほしい。
AI研究所ができて約2年、相当なデータの整備を進めてきた。AIの活用といっても、このデータベースを活用できる基盤が整っていないと、100階建ての高層ビルを建てることはできない。
どんなに優れたアルゴリズムが生まれ、画期的な技術が活用されても、データベース基盤という土壌ができなければ、レバレッジは十分に効かないと考えている。その点について、AI研究所は既に高いパフォーマンスを出している。
6月30日に、AI研究所から初めて世の中にリリースした。「BigGorilla」という、機械学習の利用を加速させる無料のデータ統合ツール群だ。データサイエンスの一連のプロセス(データ収集、整備、モデリング、解釈)のうち5~8割もの時間が使われるという、データ収集・整備のプロセスを効率化することを目的に開発した。社内では既に使っており、だからこそデータベース基盤を整備することができたというものだ。
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