シンガポールではブランドのロゴが大きく入るアイテムに人気が集中する
ファイナンシャル・プランナー(FP)の花輪陽子です。夫の転勤がきっかけで、2015年に家族でシンガポールに移住しました。実は私は昔から洋服が大好きで、学生時代と20代の会社員時代に洋服を買い過ぎてリボ地獄に陥ったこともあり、FPを目指すきっかけになるほどでした。私が見た買い物天国・シンガポールの実際と、現地で感じた「アパレルの黄金時代」についてお伝えしたいと思います。
日本ではアパレル業界は不況と言われていますが、実は高級ブランドには売り上げを伸ばしているところもあり、海外では大きく花開いている業界です。実際、LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)グループの2017年度連結決算は、過去最高の売上収益となりました。主力の「ファッションと革製品」が好調に推移したこともあり、2ケタの増収・増益を達成しています。地域別では、フランスを除くヨーロッパや日本を除くアジア地域、米国などが健闘しました。
CHANELは108年の歴史の中で初めての年次結果を発表しましたが、2017年の売上高は約1兆560億円と前年比11%増収でした。GUCCI、Saint Laurent、Balenciaga、Bottega Veneta、Alexander McQueenなどのブランドを傘下に持つKeringは2017年の売上高は約2兆585億円でした。GUCCIの売上高は同41.8%増。ハンドメイドの高級バッグや食器などでおなじみのHERMESは、2017年売上高が同6.7%増の55億ユーロ(約7179億6900万円)と記録を更新しています。
シンガポールのショッピングモールを見ると、LOUIS VUITTON やCHANELは頻繁に入場制限をするほど顧客で溢れかえっています。GUCCIのロゴTシャツは売り切れとなり、中国人の友達のために日本のデパートから取り寄せたこともあります。また、バーキンが欲しいけど手に入らないので日本でも見てきて欲しいと言われることもあります。
マッキンゼーとファッション業界による調査によると、ファッションは2006年から2015年に年間5.5%もの成長をしてきたということです。マッキンゼー・グローバル・ファッション・インデックス(McKinsey Global Fashion Index)によれば、現在の推定価値は2.4兆ドル、国のGDPに例えるならば世界第7位の経済規模になります。
ファッション業界の勝者総取りの構図
なぜアパレルの⻩金時代なのに、日本では厳しいブランドが多いのでしょうか。それはファッション業界の勝者総取りの構図に要因があるのではないでしょうか。
前述の同マッキンゼーとファッション業界による調査によると、トップ20%の会社の売り上げが全体のほとんどを占めています。
勝者はAdidas、Burberry、Chow Tai Fook、Richemont、Fast Retailing、HERMES、H&M、Inditex、L Brands、Luxottica、LVMH、M&S、Michael Kors、Next、Nike、Nordstrom、Pandora、Prada、Ralph Lauren、TJXなどです。
シンガポールのマリーナベイサンズなどのモールでは頻繁に店舗の入れ替えがあります。人気が出ないブランドはあっと言う間に入れ替わり、生き残りは高級ライン、カジュアルライン共に結果的に超有名ブランドに集約されていきます。LOUIS VUITTON やCHANELなどは改装をして立派な店舗を構え、ブランドはより良い立地や売り場面積を占領するのでより売れるようになるのです。日本のデパート内のブランドにはまだバラエティを感じる当たり、シンガポールは数字によりシビアなのかもしれません
ブランド側もLVHMを始めとしたグループ企業が多く、Cartierや Van Cleef & Arpelsなどを抱えるRichemont、GUCCIなどを抱えるKeringなど複数のブランドを抱えてリスクを低減させながら利益を追求するスタイルをとっていることも分かります。世界経済の動向に加えて、強豪との競争など不確定要素が大きいからです。
また、オンラインのYoox Net-a-Porter Groupも好調で売上高は前期比11.7%増の約2821億円を売り上げています。Net-a-Porterはセールを開始する時にウェブサイトが落ちるほどの人気があってシンガポールの多くの人も利用しています。Yooxはアウトレット品をオンラインで販売しているため、既存店舗はこれらのオンラインサイトとの戦いも意識して戦略を立てる必要があります。
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CLUB21というシンガポールのアパレル企業のファッションイベント。High Teeイベントとして、メンバーには飲み物と小さなケーキ、シャンパンが振る舞われた |
6つのセグメントに分けてマーケティング
同「マッキンゼーとファッション業界による調査」によると、ファッション業界は6つのセグメントに分けてマーケティングされています。「Luxury」(CHANELなどで315ドル以上)、「Affordable Luxury」(ToryBurchなどで156-315ドル)、「PremiumBridge」(Nikeなどで96-155ドル)、「Mid-Market」(Zaraなどで41-95ドル)、「Value」(TJ Maxxなどで21-40ドル)、「Discount」(Primarkなどで20ドル以下)。
さらにカテゴリーも洋服、靴、スポーツウェア、バッグ、時計や宝石、その他と分けられ、どの分野で伸びているのかも分析します。欧米やシンガポールではこのように非常に細かく消費者のニーズをセグメンテーションしているのです。
例えばシンガポールでは銀行、レストランなども預金残高や支払い額に応じて受けられるサービスが変わり何段階にも分かれています。アパレルやモールのメンバーシップ制度も多く、一般に売上高に応じて4~5段階程度に細かく分かれています。上位メンバーシップだとイベントへの招待や修理の無料、割引や先行セールの案内など様々なサービスを受けることができるようになっています。このように優良顧客に対してはサービスの提供によってオンラインとの差別化を図っているのです。
実は日本ブランドでもシンガポールで非常に人気の高いブランドがあります。
YOHJI YAMAMOTO、COMME DES GARCONS、ISSEI MIYAKE 、SACAIなどです。シンガポールの富裕層もBAOBAOのバッグは気軽に持ち歩くバッグとして利用している人も多いです。
SACAIはシンガポーリアンやフランス人の熱烈なファンがいて、シンガポールで行われたファッションショーに行った時に来季の商品を注文している人も多く目にしました。SACAIの商品は一つ一つ手作りで、細部にまでこだわりと魂がこもっていると感じます。こだわりの強い富裕層にもその情熱が伝わり、DIORのオートクチュール商品と戦うことができる日本ブランドとして今後の成長にも期待できそうです。
DOVERSTREET MARKET SINGAPOREでSACAIのモデルのランウェイがあり、シャンパンと軽食が提供された
近藤大介氏の著書『未来の中国年表』によると、2023年に中国が世界一の経済大国となり、中間層4億人が海外で爆消費をするという予測もあるほどです。つまり爆買いはまだ序章にすぎずこれから本格的な爆買いが始まるということです。シンガポールは中国からの買い物客もすでに上手に取り込んでいて、シンガポールの観光収入を見ると、観光収入の30%は「買い物」で稼ぎ、中国観光客が落とすお金の42%が「買い物」となっています(2017年第一四半期)。
私も中国人や中華系シンガポーリアンの友達と日本でもシンガポールでもよく買い物に行きますが、「ブランド物はロゴが命」という人達も多いことに驚きます。彼らの価値観としては、追加料金を支払ってでも有名ブランドの商品が買いたい、その中でもそのブランドだとハッキリと一目で分かるロゴがあるのがいい、ブランドが分かりにくい物にお金をかけるのは無駄だと思っている人もいます。
バッグや靴やベルトなどはロゴマークができるだけ大きく、一目でそのブランドだと分かる定番中の定番が人気です。デザイナーズブランドの大きなロゴ入りTシャツはブランドが非常に分かりやすいので大人気で売り切れになる程です。子供とお揃いで着るスタイルも人気があります。
富や成功の象徴としてのブランド物
デザインが好きといった理由の他にも、富や成功を象徴する記号として消費しているのです。ブランド物を身につけている人に対する尊敬の眼差しも大きく、「Aさんはこのブランドを身につけていて素晴らしい」と言ったセリフを会話の中で聞いたことも多々あります。本質ではなく、うわべを見て判断するのは「キアス」という気質のせいかもしれません。
シンガポール人の友人に頼まれて日本のデパートでお土産に購入したTシャツ
「キアス」とは、元々は福建の言葉で、喪失への強い恐怖感といった意味です。シンガポールでは小学校の成績で将来が決まるなど過剰なエリート教育、あまりにも経済合理性や効率を優先させ過ぎる政策などから、過当競争によるダークサイトとして、喪失への強い恐怖感や周りを出し抜いてでも有利になりたいという心が発生するのではないかと推測されます。
中国も経済成長が著しいのですが、欧米社会ではアジア人の地位が低く見られることもあるために劣等感を抱えていることも多く、そんな中で自分の経済力を瞬時に相手に伝えることができるのがロゴのパワーなのです。
銀座に構えるインバウンド向けのデパートも中華系をターゲットにするならば、アンケートと引き換えにバウチャーや物(簡単なアンケートなら高価な必要はありません)を渡すなど、彼らが本当に欲しい物をリサーチする価値はあります。なぜなら、キアス気質が強くて「もらえるものはもらいたい」と考える中華系にプレゼントは大変有効だからです。
花輪 陽子
ファイナンシャル・プランナー
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)CFP認定者。1978年、三重県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後、FPとして独立。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、東京とシンガポールでセミナー講師など幅広い活動を行う。『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)、『夫婦で貯める1億円!』(ダイヤモンド社)など著書多数。「ホンマでっか!?TV」「有吉ゼミ」などテレビ出演や講演経験も多数。
https://yokohanawa.com/
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