活躍できる駐在員の特徴

 海外進出形態が製造業からサービス業へと変化すれば、日本から派遣される駐在員の資質も変わってくる。海外で活躍できる人材となるため必要な資質を、これまでの経験を通じて2点ご紹介したい。

①個人としてコミットメントできる

 5年後の黒字化を目指して新興国に進出したある企業のサラリーマン経営者は、その国の平均所得は低いので利益が出るようになるには10年はかかるといい、自社の事業内容を変更することはなかった。10年間赤字を垂れ流しても余りある利益が出るのであればよいが、そうでないならば、その国の金利は8%なので預金だけ残して事業は引き揚げた方が合理的である。

 新たな市場での新規ビジネスは想定外のことだらけである。前任者の仕事を引き継ぐ、日本本社に指示されたことをやる、というスタンスではなくて、成功するために何をしなければいけないのか、前例のないことについても日本本社に提案し、巻き込んでいくくらいの責任感のある人の方がうまくいく。

②ローカル社員を信頼して仕事を任せることができる

 せっかく海外進出しても日本人だけで日本人相手に商売をしていては事業に広がりがない。海外進出して成功している日本人経営者は、ローカル社員を雇用し、信頼して仕事を任せている。失敗したら自分が責任を取る覚悟を持ち、ローカル社員に任せても、肝となるところは自ら徹底的に確認をする。権限委譲のバランスをうまくとると、ローカル社員も自信を持ち積極的に仕事に励むようになる。

 日本のやり方をそのまま現地に持ち込んでしまうと、現地の商慣習と合わず、機能的な事業運営ができず、ローカルスタッフのモチベーションも下がり、優秀な人材を維持することができない。

 また、ローカルスタッフに全てを任せてしまうのもうまくいかないケースである。ローカルスタッフから言われたことを検証もせずそのまま日本本社に伝え「海外だから仕方がない」と根拠なく納得してしまっては何も先に進まない。責任者としての義務を果たしていない。

 以上のように、海外で活躍できるのは、組織よりも個人として動ける人材である。組織や協調性を大切とする日本企業の中では、型破りな存在かもしれないが、そういった人材を受け入れられる土壌を作ることで、企業としての多様性が増し、成長へと繋がる。

駐在員のメンタルヘルス管理は必須

 最後に一つ、日本企業にお願いがある。

 海外駐在員たちの間で隠語として使われている言葉に「OKY」がある。これは「O(おまえが)K(ここにきて)Y(やってみろ)」の略で、現地の事情を知らずに、日本から無理な指示や要求ばかり送ってくる上司の無理解や、現地側と本社側との意識のギャップを示している。

 慣れない海外で悪戦苦闘しているところに、それを知らない日本側から無茶ぶりをされたり、心ない対応をされてしまうと駐在員がモチベーションを失ってしまう。実際、駐在中に躁鬱状態となってしまったり、帰任後短期で退職するケースが増えている。第三者のコーチングなどを活用して駐在員のメンタルヘルスを維持することも検討していただきたい。

 日本企業も派遣される駐在員も成功を目指して海外進出している。異文化の地では、想定外のことが多々起こるが、日本本社には駐在員や現地法人をモニタリングしながら事業がうまくいくようにサポートしていただきたい。

大曽根 貴子
Advance Business Support Pte Ltd ダイレクター
シンガポール勅許会計士、税理士(日本・シンガポール)

BIG4税務グループおよび監査法人を経てシンガポールで会計事務所を設立し独立。国際税務アドバイスを専門とし、日系企業の海外進出、外資系企業の日本進出を支援している。