飯田:食品会社は皆似たような「おいしさを健康に」とか「しあわせを笑顔に」とかが多くて。一度、学生に企業名とコピーをマッチングさせたことがあるんです。
梅田:かなり意地悪ですね、それは(笑)。
飯田:「おいしさと健康に」や「おいしい記憶を作りたい」といったコピーを黒板に貼って、企業名も並べて、じゃあマッチングしてみましょうと。3割くらいしか当たらないんです。
梅田:なるほど。
飯田:でも、カルビーの「掘り出そう、自然の力」は正解率が高かったんです。なぜわかったのかと学生に聞いたら、コピーの最後にある「力(ちから)」という字がカタカナの「カ」と同じで、カルビーをすごく連想させるからだと。
梅田:そうかそうか。
飯田:カルビーがどこまで意図していたかはわからないんですが、消費者は割とそんなふうに字面で見ていることがあります。「掘り出す」という言葉で単に「ポテトを連想させる」だけでは、フリトレーでもいいし、湖池屋でもよくなってしまう。でもコピーの中にカルビーの「カ」の字が入っていることで連想量が強くなって、とても成功した例です。
「カラダにピース カルピス」もいいですよね。100%絶対に知っている。

レトリックから、は危険
梅田:そういった話を冷静にすると、コピーライターの場合はすぐに、じゃあレトリックから考えようってなるんです。本当はいちばん危険なことであるはずなのですけれど。
レトリックだったりテクニックだったりといったものよりも、まず何を本当に言わなければならないのか、それを僕らが普段使っている言葉の中でどう掘り当てることができるのか、ということが第一であるべきなんです。
そして、コンセプトを作っていく過程で、コンセプトがそのまま簡単な言葉として出ていくこともあれば、「掘り出そう」やカルビーの「カ(ちから・カ)」といったレトリックを入れて、最後にまとめる必要が出てくることもあります。
どちらにしても、強い言葉を用いることを大前提にしないで、まず本当に言うべきことは何かとか、それにふさわしい言葉選びって何だろうというところから始められると、いちばんいいですよね。
飯田:となると、あまり奇をてらったものでなく、力業でもなく、やはり皆がよくわかって伝わりやすい言葉となると、限られてくるのではないかと思うんです。日本語の何万語という語彙の中で、精査された一部しか使えないというか、皆が好んで使う語彙は限られてくるのではないかと。
梅田:そうですね、限られてくると思います。その時に出てくるのがやはり、その「新しい意味」をどう定義するのかということになってくるのではないかと思います。
例えば僕の仕事の一例で言うと、缶コーヒーのジョージアのコピー「世界は誰かの仕事でできている。」は、「世界」も「誰かの」も「仕事」も「できている」もすべて簡単な言葉です。ただ、そのすべてが組み合わさることで「新しい文脈」が生まれて、「あ、確かにそういうことか」と感じる。
加えて、ここでいう「世界」はいわゆる全世界、地球丸ごとというより自分たちが暮らしている場所や日本を意味していたり、「仕事」はデスクワークから肉体労働まで含めたすべての仕事が含まれていたりして、新しい意味がそこに付け加わっていると思うんです。
少し前の事例ですが、仕事情報誌『タウンワーク』のかつてのコピーは「その経験は味方だ。」でした。「バイト」と「経験」を組み合わせると、いい経験も悪い経験もあると。そういうことも意図しながら、「あなたの力になります」や「あなたの今後に役に立ちます」ではなくて「味方」、つまり「ずっとあなたに寄り添っている分身のようなものになります」ということを書いたんです。この例でも新しい意味を付け加えられたように感じています。
僕はこういった、簡単な言葉に新しい意味を付け加えながら、新しい意味だけではなくて、新しい文脈を作るということを比較的やってきたので、とてもいい本に出会えたと思っています。
飯田:ありがとうございます。新しい文脈っていいですね。新しい意味なんてなかなか発見できるものでもないし、作り出せるものでもありませんが、目にした人がそこに新しい世界観や価値を見いだせれば、新しい文脈が生まれて、自分だけの言葉になるわけですね。
缶コーヒーのジョージアなら、「コーヒーを飲む」というだけの行為だったものに、ものすごく付加価値が付きますよね。「今、俺が飲んでいるのは、俺の仕事を作った世界からのご褒美だ」といった具合に。そうするとおいしさがまた違ってくるし、ブランドへの愛着も変わってくると思います。
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