[常識3]自社株買いと株価との関係

 自社株買いの発表や実行も、株価に影響を与えるといわれている。具体的には、自社株買いを行うと株価が上昇することが多いようだ。これには、以下の4つの理由が関係していると考えられている。

 1つ目は、アナウンスメント効果だ。具体的には、企業自身が自社株買いを行うことは、その企業を最もよく知っている企業自身がその時点で想定している自社の理論株価よりも実際の株価が低いことを前提にしているはずであり、まさに自社株買いを行うこと自体が、株価が安すぎるという企業からのメッセージだと投資家が受け止めるという点である。その結果、投資家が株式を購入することで、株価が上昇する可能性が高くなる。

 2つ目は、1株当たりの利益の上昇の可能性である。つまり、自社株買いを行うと、流通している株数が減少する。一方で自社株買いのために、保有している現金や預金を使うと、預金の金利分だけ儲けは減少する。ただ、一般に預金金利はたいした金額ではないので、当期純利益の減少に比較して流通株数の減少の方が多くなる可能性が高い。その結果として1株当たりの利益(EPS)が上昇し、1株当たりの価値が上昇したということで、株価の上昇につながる可能性がでてくるのだ。

 3つ目は、ROEの上昇の可能性である。自社株買いを行うと、貸借対照表の上では株主に払い戻しをしたように考えて、自社株買いをした金額がROEの分母の自己資本から差し引かれていく。一方で、自社株買いを保有している現金預金を使って行うと、預金の金利が減少することによって、ROEの分子の当期純利益が減少する。ただ、一般に預金の金利は少額の場合が多いので、分子の当期純利益の減少に比較して、分母の自己資本の減少へのインパクトが大きくなる可能性が高い。その結果、ROEが高くなる可能性が高まり、株主から見た投資効率が上がったということで、株価が上昇する可能性がでてくるのだ。

 4つ目は、自社株買いによって株式の買い圧力がかかり株価が上昇する可能性が高まるという点である。

 なお、4つの中では、1つ目のアナウンスメント効果が最も影響が大きいといわれている。

©Shigeru Nishiyama
©Shigeru Nishiyama

 一方で、自社株買いの反対である増資は、一般に株価の下落につながるといわれている。これは、増資で資金を集めることには、次のような懸念があるからだ。

①経営者が必ずしも株主の希望する方向に増資した資金を使ってくれない可能性があるという情報の非対称性、②株数が増えてしまい株主の権利が薄まってしまうという株主の権利の希薄化、③増資した資金がすぐに儲けにつながらないと1株当たり利益やROEなどが下落する可能性。

 増資にはこうした懸念があるため、成長期の企業が投資のための資金を調達する場合や、安定期の企業が大きな投資をする際に増資をするような場合、また危機的な状況に陥っている企業が生き残りを図るために増資をする場合を除いて、あまり行われない。

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