脂肪燃焼量まで把握

 将来は、精度をさらに高めて電車・バスのIC乗車券など電子決済に使うことも想定している。現在は送信信号として機械音を流しているが、技術的には聞いている音楽をそのまま送信信号として活用できるという。

 「イヤホンで好きな音楽を聞いているだけで、何の操作もせずに改札を通ったり商品を買ったりすることも夢ではない」と、NECの花沢健研究部長は説明する。イヤラブル端末が、日常生活に欠かせないツールへと成長する可能性があるのだ。

 「これまで注目されることは少なかったが、耳が果たしている機能は想像以上に幅広い。耳の万能性を引き出せば、もっと有効に活用できるはずだ」。こう話すのは、広島市立大学の谷口和弘講師。様々な形状のイヤラブル端末の研究開発を進めている。

まばたきやそしゃくも耳で感知できる
●耳で収集できる情報とイヤラブルの試作品
まばたきやそしゃくも耳で感知できる<br />●耳で収集できる情報とイヤラブルの試作品
(写真=橋本 正弘)
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「イヤラブル」の優位性
イヤホンは日常的に使われているため、「ウエアラブル疲れ」が起きにくい
取り外ししやすく、目立たない形で装着できる
指紋や静脈など他の生体認証と異なり、常時認証が可能
小声でも音声を拾うことができる

 その一つが、個人の生体情報を収集して健康管理に生かすこと。腕時計型端末では主に脈拍が取れるが、イヤラブル端末なら脈拍に加えて、体温、血圧、呼吸や声、そしゃく、まばたきといった多様な情報を採取できるという。

 中でも大きな役割を果たしそうなのが皮膚ガスからの情報だ。皮膚ガスとは、全身から微量に放出されている気体のことで、成分を分析するとアルコール濃度や腸内環境などを正確に把握できる。空気が滞留しやすい耳の裏は、皮膚ガスを採取するのに格好の場所だ。

 アセトンが含まれるガスの数値を測れば体脂肪の燃焼量も分かる。そしゃくデータと組み合わせることで、「きめ細やかな新しいダイエット商品を開発できる」(谷口氏)。端末の操作を声やそしゃく、まばたきなどでできるようにすれば、利便性もさらに高められる。

 耳は内部で脳とつながっているという構造上の特徴がある。谷口氏はこの点にも注目し、松果体と呼ばれる脳内の器官に向けて耳から赤外線を当てる端末を開発。松果体に刺激を与えると、眠気を感じるホルモンの分泌を止められる。この作用を居眠り防止に役立てようと考えている。

自動選曲で運動効果を高める

 耳から採取した情報を個人の効率的な運動の促進に役立てようと考えているのが、ソニーだ。昨年、ランニング時に使うイヤラブル端末「スマートビートレーナー」を発売した。

<b>ソニーが発売したイヤラブル端末「スマートビートレーナー」。イヤホンに6つのセンサーが内蔵されているが、重さは43gと軽く、装着しても違和感は少ない</b>
ソニーが発売したイヤラブル端末「スマートビートレーナー」。イヤホンに6つのセンサーが内蔵されているが、重さは43gと軽く、装着しても違和感は少ない