イノベーションの分野でも新しい動きが出ている。

 イノベーションを効果的に生み出すため、ローリィ氏はウォルマートの中に自身直轄のインキュベーション組織「Store No.8」を設立、「アマゾン・ゴー」のようなレジなし店舗やVR(仮想現実)を使ったサービスの開発などを進めている。そのプロジェクトの一つとして動いていた会話型ショッピングを5月31日にローンチさせた。「Jet Black」だ。

 ショッピングのトレンドは従来のeコマースだけでなく、音声アシスタントAIを用いた音声ショッピングやテキストメッセージを組み込んだ会話型コマース、画像や動画を通して買い物するビジュアルショッピングなどに広がっている。その中で、Jet Blackは都市部で生活する多忙な共働き世帯を対象に、テキストメッセージのやりとりで商品選びの相談や商品の注文まですべてを可能にするサービスだ。顧客の相談については専門スタッフとAI(人工知能)がリアルタイムで対応する。

 また、米高級百貨店ロード・アンド・テイラーがウォルマート・ドット・コムの中にフラッグシップストアを開設したように、ウォルマートはサードパーティの出店を増やしつつある。従来、ウォルマートとは無縁だったブランドがウォルマートと組み始めたのも、この1年の動きだ。

在庫の保管は棚の上

 もちろん、ウォルマートの強さの一つである店舗の生産性向上に向けた取り組みも、従来通り注力している。

 一部の混雑店で導入し始めた積み卸し装置。これはトラックから降ろした商品の番号を読み取り、最適なカートに分類するためのものだ。在庫切れの商品は優先的に分類される。これによって、荷下ろしにかかっていた人員は8人から4人に減少した。離職率の高いバックヤードの労働環境改善と適切な在庫管理の両方を実現するための切り札という位置づけだ。

 積み卸し装置の導入に合わせて、在庫管理の新しいやり方もテストしている。従来は店舗のバックヤードにまとめて在庫を保管していたが、その商品の棚の上に在庫を並べるのだ。その方が効率的に棚の欠品などに対処できる可能性があるという。

 また、店内には「ボサノバ」と名付けられたロボットが巡回、商品のラベルや値段、商品が正しい場所に置かれているかどうかをチェックしている。棚のバーコードをスキャンすれば、ボサノバが朝に撮影した写真が表示されるため、顧客が間違った場所に商品を戻した場合など、商品の場所をすぐに修正することができる。

繁盛店に導入された積み卸し装置。トラックから積み荷を降ろした後は機械が番号を読み取り、最適なカートに分類していく
店内を1日3回巡回、商品のラベルや値段などを確認する
店内を1日3回巡回、商品のラベルや値段などを確認する

 こういった絶えざるテストと改善はウォルマートのDNA。それが、米国の既存店売上高の改善に寄与しているのは間違いない。そして、力強い米国事業がeコマースや国際部門の積極的な投資を後押ししている。

 今年5月、ウォルマートはインドのeコマース最大手、フリップカートの77%の株式を取得すると発表した。160億ドルという金額はウォルマートの買収案件としては過去最大だが、アマゾンやアリババなどeコマースの巨人がしのぎを削るインド市場で有利なポジションを得たことは間違いない。

 その決断を支えたのは好調な米国部門だ。米国部門はこの数年で、既存店売上高だけでなく、顧客の満足度、競合店との価格、在庫管理、従業員のエンゲージメントなどすべてのスコアが改善している。「米国の店舗に関するすべてに満足している。eコマースや国際展開で積極的になれるのも力強い土台があるからだ」。そうマクミロンCEOは語る。

 インドのeコマース市場はまだ発展段階。フリップカートの評価額が妥当かどうかを判断するにはもう少し時間がかかる。だが、小売りにおける最後のフロンティアと言えるインド市場に足場を築く戦略的意義は大きい。ウォルマートはインドに加えて、米国や中国、メキシコを成長市場に据えている。既に傘下の英アズダとブラジル事業の持ち分を大きく減らした。今後はオムニチャネルの深化と同時に、海外事業のポートフォリオの入れ替えを進めるはずだ。

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