【2018年6月1日】:アプリがつなぐオムニチャネル

 そして今年の株主総会――。改めてこの1年の取り組みを振り返ると、経営陣が進めるオムニチャネル戦略は一段と加速した。とりわけアプリの機能向上が目立つ。

 ウォルマートのショッピングアプリはオンライン向けの商品が並ぶ普通のECサイトだが、ユーザーのそばにウォルマートの店舗があったり、行きつけの店舗を登録していたりすると、店内マップや売り場の詳細、営業時間、薬局やベーカリーの有無など店舗情報に切り替わる。

 「アプリは従来のビジネスとeコマースをつなげる接着剤」。ウォルマート米国部門のグレッグ・フォーランCEOが言うように、このアプリにはオムニチャネルを実現するためのシカケが数多く埋め込まれている。

大幅に機能が拡充されたウォルマートのショッピングアプリ
大幅に機能が拡充されたウォルマートのショッピングアプリ
ウォルマート米国部門を建て直したグレッグ・フォーランCEO(写真中央)
ウォルマート米国部門を建て直したグレッグ・フォーランCEO(写真中央)

 例えば、リスト機能がそうだ。これはいわゆる買い物リストを作る機能で、アプリ内に買い物リストを書き込み検索をかけると、商品のある場所や在庫として置いているブランドが表示される。購入後、店舗やピックアップ拠点で受け取りたければ、そう選択すればいい。広大な店内で欲しい商品が見つからない場合も、アプリで検索をかければ棚の場所がすぐ分かる。

 このアプリには前述したウォルマート・ペイも統合されており、これまで同様にレジでの支払いをスキップできる。返品プロセスも簡素化されており、アプリ内の返品ボタンをタップした後、店内の専用コーナーに行き、専用端末に表示されたQRコードをアプリでスキャンするだけで返品が可能だ。

 実際に返品を試してみたが、これがなかなかの優れもので、ものの1分もかからずプロセスが完了した。オンラインや店舗に関係なく、ウォルマートで買った商品であれば何でも返品できる。米国では商品の返品が当たり前で、小売店舗のサービスカウンターでは返品を望む消費者の列ができる。その時間短縮は消費者にとって大きな価値だ。「まだ全店展開していないが、これでカスタマーサービスの長い列に並ぶ必要はなくなる」。店舗のデジタル化推進を担当するマーク・マシューズ・バイスプレジデントは胸を張る。

 こういった新機能だけでなく、購入頻度の高い商品を登録しておけば、再注文の際に店舗で事前に用意しておいてくれる「リオーダー」、近隣の競合店の価格がウォルマートよりも安い場合、差額を戻してくれる「セービング・キャッチャー」など、人気の機能もアプリの中に統合されている。アプリを使った買い物の利便性は格段に上がった印象だ。

 また、ピックアップ拠点も引き続き拡充している。

 店舗以外のピックアップ拠点は既に1400カ所に上る。今年中に2100カ所になる見込みだ。一部の店舗には「ピックアップタワー」も設置された。これは巨大な自販機のようなもので、ネットで注文した際のバーコードをかざせば商品がタワーから出てくる。「タワーの効果にはとても満足している」とブレット・ビッグスCFO(最高財務責任者)は言う。今年度中に現状の200機から500機まで増やす。

一部店舗に配置されている巨大なピックアップタワー。この中に商品が保管されている

 配送の分野では、2017年10月にニューヨーク・ブルックリンを拠点にする配送スタートアップのParcelを買収、ニューヨーク地域のラストマイルを強化した。今年4月にはフード・デリバリーを手がけるドアダッシュと提携。アトランタ地区限定だが、消費者はアプリを通してドアダッシュのドライバーによる配送を選べるようになった。昨年、発表したアソシエイト・デリバリーもアトランタ地区に場所を移して実験を続けている。

 マクミロンCEOは社是と言える「Saving Money(お金の節約)」だけでなく、消費者の「Saving Time(時間の節約)」をウォルマートの価値として訴求している。同社のアプリを見ると、それに資する利便性を備えているように見える。

次ページ 在庫の保管は棚の上