【2017年6月2日】:アマゾン、電光石火の買収劇

 「会社は正しい方向に進んでいる」。創業家一族のグレッグ・ペナー取締役会長が壇上で力強く宣言したように、2017年6月の株主総会ではそれまでのような危機感ではなく、前向きな雰囲気に満ちていた。それまで前年同期比で一桁から10%程度の伸び率だったeコマース事業の売上高は株主総会前に発表された2018年1月期の第1四半期(2017年2~4月期)で63%増に急伸したからだ。

 eコマース部門のCEOに就任したローリィ氏は矢継ぎ早に手を打った。オンラインの品揃えを増やすため、オンライン靴販売を手がけるShoebuyや女性向けビンテージ衣料のModclothなど、中小の専門ECを立て続けに買収した。小規模な買収に疑問を投げかける向きもあったが、競争力のない分野の品揃えを増やすという直接的な理由だけでなく、その分野に長けている人材の獲得という面もあった。

 さらに、アマゾンへの対抗で始めた年会費ベースの無料配送システムをやめ、35ドル以上を購入すれば年会費不要で2日間無料配送を提供するプログラムに変更した。それまで疎かにされてきたECサイトの機能向上に取り組み、店舗で働く従業員に配送を代行させる「アソシエイト・デリバリー」の実験を始めたのもローリィ氏が参画して以降の動きだ。

 ジェットの強みであるスマートカートの技術も一部導入が進んだ。「カートに商品を入れると値段が下がる」という機能はまだ導入していないが、顧客が配送ではなくピックアップを選んだ際の割引や顧客の住所によって配送スピードを切り替える仕組みなどでジェットのテクノロジーが生かされている。

ウォルマートは今年4月、ウォルマート・ドット・コムのデザインを一新した
ウォルマートは今年4月、ウォルマート・ドット・コムのデザインを一新した

 もっとも、その2週間後に業界に激震が走る。全米に約460店を展開する高級食品スーパー大手、ホールフーズ・マーケットの買収をアマゾンが発表したのだ。

 既存スーパーにとって、食品・グロッサリーの分野はアマゾンの脅威が及んでいない数少ない分野の一つ。そして、この業界を巡る最大の関心事はアマゾンが食品・グロッサリーの効率的な配送網を作るのにどのくらい時間がかかるのか。今回の買収によって、その時間は大幅に短縮すると市場が見なしたことで、ウォルマートを含む小売り大手の株価は軒並み下落した。

 その後、ウォルマートと米グーグルは「音声」によるインターネット通販事業で提携を発表する。リアルとネットの生き残りをかけた戦いは新たな局面に突入した。