【2016年8月8日】:「アマゾンキラー」との邂逅

 「アマゾンキラー」。2016年8月にウォルマートが買収を発表したジェットにはこんな枕詞がついていた。買い物カゴに商品を追加するたびに商品が割引される「スマートカート・プライシング」という仕組みが評価されたためだが、それ以上にアマゾンと激戦を繰り広げたローリィ氏の存在が大きい。

 2005年にベビー用品のオンライン専門店を創業したローリィ氏はカテゴリーキラーとして、アマゾンと好勝負を演じるまでに会社を成長させた。ところが、本気になったアマゾンの低価格攻勢に直面、最終的に身売りを余儀なくされた(売却交渉を有利に進めていたのはウォルマートだったが、最後は2010年にアマゾンが買収した)。

 その後、アマゾンを出たローリィ氏は都市部の若者世代を対象にしたジェットを創業、スマートカートを武器に再びアマゾンに戦いを挑んだ。2014年の創業後、すぐに5億ドルを超える資金を投資家から集めたのは高い期待の表れだった。

ジェットを創業したローリィ氏。そのままウォルマートのEコマース部門のCEOに就任した。
ジェットを創業したローリィ氏。そのままウォルマートのEコマース部門のCEOに就任した。

 もっとも、ジェットは会員獲得で苦戦する。

 当初は50ドルの年会費を受け取る代わりに安価に商品を売る「ネット版コストコ」のようなビジネスモデルだったが、思うように会員数が伸びず会員制を早々に放棄、通常のネット通販に転換した。その後も会員獲得に多額の資金を投下しており、資金調達に駆けずり回る日々が続いた。資金調達に疲れ果てて深夜便のエコノミークラスで吐いたこともあったとローリィ氏は吐露している。ジェットは後ろ盾を必要としていた。

 一方のウォルマートも自社のeコマースを激変させるプロを必要としていた。アマゾンは従来の書籍や雑貨、家電から食品やアパレルまで戦線を拡大させている。米国の小売売上高に占めるeコマースの割合は10%に満たず将来的な拡大余地が大きいが、従来のやり方を続けているだけではアマゾンとの差は開いていくだけだからだ。

 その点、ジェットにはeコマースに精通したローリィ氏がいる。ジェットの顧客層は都市部の20代、30代が中心で、郊外中心のウォルマートと補完性もある。確かに、33億ドルという価格はかなりの割高だが、それまでeコマースを疎かにしてきたことを考えればやむを得ず、時間を買うために必要な投資と割り切ったのだろう。「今回のディールは当社のeコマースの成長を加速させる」。マクミロンCEOは買収の意図を説明したブログで力説した。

 興味深いのは、そのままEコマース部門のCEOに横滑りしたローリィ氏がウォルマートの店舗網を強みとして捉えていたことだ。

 店舗網は全米の人口の90%をカバーしており、週に数回、積み荷を満載した効率的なトラックが店舗を出入りしている。自社で倉庫を借り、配送オペレーションを差配していたローリィ氏にとって、効率的に管理された店舗は極めて魅力的に映ったに違いない。「ウォルマートの店舗は巨大な倉庫のようなもの。限界利益という面で考えれば極めて条件がいい。ウォルマートに入る際に興奮したのはそこだった」と後にローリィ氏は語っている。

 “ショッピング戦争”はECだけでなく実店舗も含めた総力戦になりつつある。eコマースに特化してきたローリィ氏は店舗というアセットの重要性を理解していた。

ローリィ氏はウォルマートの店舗をeコマースの配送拠点と見ていた
ローリィ氏はウォルマートの店舗をeコマースの配送拠点と見ていた