豊田:でも、そういうことではなくて、例えばこのル・マンだって近所に工場もなければサプライチェーンもない。持ってきたパーツとここにいる人材だけで24時間戦うんですよ。アレがないからできないとか、時間があればできるとか、そんなこと言ってる間にレースは終わってしまいます。

 だからこそ、そこにとんでもない人材育成のネタがあるんです。一般のクルマの開発期間というと3年~4年ありますけど、それとはまったく違う緊迫したクルマ作りというものがレースからは得られる。人間って追い詰められるととんでもない知恵が出るんですよ。それは、上位の者がソリューションネタを持っているとかではなくて、そういう環境を作っていくことが私の役割だと思っています。

 トヨタ生産方式のひとつに現場主義というものがありますが、それはレーシングチームであっても、会社組織であっても同じということでしょうか

豊田:現場に色んな事実がある。事実があればそれが課題になる。課題が見つかればみんなでなんとかしたいという気持ちになりますから、それがトヨタ流のカイゼンに繋がると思います。モーターレースの現場であろうが生産現場であろうが、開発現場であろうが、マーケティングの現場であろうが、カイゼンに向けてそのサイクルを回すことがトヨタだと思います。いきなりベストを狙わずにベターベターベター。昨日より今日が、今日より明日が良くなるやり方があるはずで、ベターを絶やさない努力を続ける、これがどの分野でも大切ということです。

現状では、電気自動車はコモディティー化への道だ

 ところで、アウディは参加するレースをWECから(電気自動車=EVが争う)「フォーミュラe」に移しました。それについてはどう思われますか。先程、現実的な解はハイブリッドだとおっしゃっていましたし、トヨタはEVには行かないのですか?

豊田:それはね、社長として言うと、いろいろ問題がありますから(笑)。モリゾウとして話しますけど、いまトヨタ自動車にはEV事業室というものがあり、それは私が担当しています。以前86(トヨタのスポーツカー)をベースに作ったEVがあって、試乗したことがあるんです。印象を聞かれたんで「ああ、電気自動車だなっ」て言いました。

 電気自動車、ですか?

豊田:その本意というのは「86であれなんであれ、EVはEVになってしまう。すると、コモディティになってしまう」ということです。いまのメーカーにとっては、自分たちの首を締める可能性がある。

 やっぱりクルマというものを“愛車”にしておきたいという思いがあります。それがコモディティーになると、愛車から遠ざかる可能性がある。商品化決定会議の議長をやっているのですが、自分自身を最後のフィルターだと思っています。そしてEVであっても“愛”のつく乗り物、これはやっぱりトヨタのEVだね、日産のEVだねって、どのブランドのものなのかわかるクルマ作りで競争しないと、EVは単なるEVになってしまう。そこが一番自分がこだわりたいところで、だから自分で担当しています。

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小林可夢偉選手のドライブにより歴史的なタイムでポールをとった7号車。まさかのクラッチトラブルでリタイヤとなった

 このインタビューは、レーススタート後、約1時間が経過し、トヨタの7号車がトップで順調にラップを重ねている時に行われたものだ。

 レース後の囲み会見で、章男社長は、7号車小林可夢偉選手の歴史的なコースレコードを称えながらも、ポルシェに対し“強さ”が足りなかったと話した。そして、社長としてこのル・マンの地に初めて訪れたことについて、昨年の「その場にいてやれなくてごめん」というコメントを引き合いに出し「社長としては寄り添えたものの、ドライバーモリゾウとして寄り添えたのかというと、自分自身やるべきことはまだまだあるなと、思いました。これからはドライバーモリゾウの目線で、チームを支えていきたい」と話した。

 ただし、「来年もルマンに挑戦を続けるのか」という問いに対しては、章男社長も、TS050レーシングハイブリッドプロジェクトリーダーの村田久武氏も、この場では明言しなかったことが少し気がかりだった。