「この人となら死ねる」と思わせるリーダーの本義

門田:私が部下たちに話を聞いたら、みんな「吉田さんとなら一緒に死ねると思った」って言うんですよ。

櫻井:すごいことですよね。

門田:そうですね。そういう言葉を部下が……あのとき一緒に戦った部下たちが言っていますし、実際、その言葉通り、彼らは何度も突入しているんです。

櫻井:言葉だけの問題じゃない。現場に行くと、本当に突入したら、命に関わってくるわけですからね。

門田:全電源喪失ですから、事故後の原子炉建屋では、灯りと言えば、懐中電灯で足元を照らすことぐらいしかできません。真っ暗な中、ボラとかが死んでいる水浸しの大きな廊下を進んで、一文字ハンドルを開けて、中に入って、もう1つ開けて、突入してMO弁を開けるわけですけど、それって、もう生と死の話ですから。部下たちは「吉田さんとなら死ねる」と思って、何度も、何度も突入していく。

櫻井:吉田さんも、もうこれで死ぬかもしれないって、本当に思っていらしたんでしょうね。

門田:自分の死の淵は誰だって見るんだけど、この人たちは、自分の死の淵だけじゃなく、「国家」の死の淵を目にしていたわけです。「このリーダーのためなら死ねる」というくらいの人間関係を普段から築いていたからこそ、何度も、生と死がかかった突入をくり返した。「この人たちでなければ、このリーダーでなければ、日本は助からなかったんだなぁ」って、つくづく思いました。

櫻井:日本の官邸なんかは全然目を向けないけど、ハーバード・ビジネス・スクールは、福島のことに大変注目しているんです。吉田さんにも。そして福島第二の増田尚宏所長にも。福島第二は辛うじて水素爆発の危機を回避できた。では、増田さんはいかにしてこの危機を乗り切ったか、熱心に研究しているんです。

門田:そうなんですか。

櫻井:その研究の中では「いかにして合意をつくっていくか」が重要なテーマになっていて、その合意の源になるのが「自分の命はどうなってもいい。とにかく、この危機を収めるんだ」っていうリーダーとしての本義でした。「日本国の危機を収めなければいけない」っていう100%「公」の使命感です。そんなリーダーの姿を目にするものだから、部下はちゃんとついてくる。福島第一の話に戻れば、官邸や東電本店と大げんかする吉田さんの姿を見たら、彼の部下たちは「この人と一緒にやっていこう」という気持ちになりますよね。それをさせることができた。それが、吉田さんが体現した「リーダーの本義」なんでしょうね。

(後編につづく)

(構成/佐保 圭=フリーライター、写真/涌井 直志)

リーダーの本義

著者:門田隆将
ページ数:276ページ
出版社:日経BP社
定価:1512円
出版日:2016年06月21日

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門田 隆将(かどた・りゅうしょう)

ジャーナリスト、ノンフィクション作家。高知県安芸市生まれ。土佐高校、中央大学法学部政治学科卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部に配属され、記者、デスク、次長、副部長を経て、2008年4月に独立。2010年9月、『この命、義に捧ぐ』で、「第19回山本七平賞」を受賞。『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社)やNHKでドラマ化された『甲子園への遺言-伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』(講談社)、『なぜ君は絶望と闘えたのか-本村洋の3300日』(新潮社)、『太平洋戦争 最後の証言』(小学館)、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP研究所)など、著書多数。
ホームページ→ http://www.kadotaryusho.com/

櫻井 よしこ(さくらい・よしこ)

ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長。ベトナム生まれ。新潟県立長岡高等学校卒業後、ハワイ大学歴史学部に入学、同大学を卒業後、クリスチャンサイエンスモニター紙、東京支局の助手としてジャーナリズムの仕事を始め、アジア新聞財団 DEPTH NEWSの記者、東京支局長、NTVニュースキャスターを経て、現在に至る。2007年にシンクタンク、国家基本問題研究所を設立し、国防、外交、憲法、教育、経済など幅広いテーマに関して日本の長期戦略の構築に挑んでいる。
ホームページ→ http://yoshiko-sakurai.jp/