肥大化した万能感がリーダーの目を曇らせる

門田:拙著『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社刊)の中にも書いたんですが、リーダーとなる人物の中には、心理学でいうところの「万能感」を持ち続ける人が、結構いるんです。舛添さんなんかは、その典型的な事例だと思います。

櫻井:万能感ですか。

門田:もともと万能感というのは、誰もが持って生まれた性質と言えます。赤ちゃんは、お乳が飲みたくなったらわーんと泣く。すると、お母さんがお乳を飲ませてくれる。おしっこして泣いたら、オムツを替えてくれる。そのうち、お母さんはだんだん先回りしてやってくれるようになるので、まだ泣いてもいないのに、そろそろお乳を飲みたいなと思ったら飲ませてくれる。おしっこが嫌だと思って、泣こうと思ったら、その前に替えてくれる。そうなると、赤ちゃんは「呪術的な万能さが自分にはある」と……。

櫻井:錯覚しちゃう?

門田:そう、錯覚して、万能感を持つようになるわけです。自分が思ったことは、すっ、すっと実現するわけですから。

櫻井:ええ。

門田:しかし、2歳、3歳……と成長するうち、「あそこのブランコに行って遊びたい!」と思っても、井戸端会議中のお母さんが手を離してくれないとか、ほかの子どもたちと遊んだら自分の思い通りにはならないとか、肥大化していた万能感が、これも削られ、あれも削られて、だんだん小さくなっていくわけです。そして、少年から青年になり、大人になるときには、適正な大きさの万能感になっていきます。だけど、まれに例外が生まれる。

櫻井:どんな?

門田:たとえば一部の裁判官のように、両親の前ではいつもいい子で、幼い頃からエリートコースを突っ走ってきたような人間は、普通の人よりも肥大化した万能感が削られないまま、大人になってしまう。舛添さんもその典型で、ずっと成績がダントツで来ており、私には、万能感に満ち満ちているように見えました。だから「この人がリーダーになるのは、ちょっとどうだろうか」って思ったんです。

櫻井:どんなところが気になったんですか。

門田:弁は立つし、いろんなパフォーマンスもできる。ちょっとは挫折もあったようだけれど、彼は万能感を持ったまま、都知事になった。そうすると、万能感に満ちた人は、自分以外は馬鹿というか、駒というか、そうとしか見えません。都民なんか、税金を納めてくれる、ただの駒ですよ。要するに、現実を認識する力が万能感のために著しく劣ってくるわけです。

櫻井:万能感で認識力が弱っちゃう。

門田:そう。きちんとものを見ることができなくなる。目を曇らせる。そういうものが、万能感。『万能感とは何か』(新潮文庫)の著者・和田迪子さんが書いていますが、心理学の研究では、織田信長とか、ジュリアス・シーザーとか、ナポレオンとか、歴史上のリーダーには万能感を持つ人も多かったという分析があります。今回の舛添さんの一件は、その典型的な事例だと思います。

櫻井:本当にそうですね。

門田:その点で、今回、私が『リーダーの本義』で書かせてもらったのは、舛添さんのような万能感に塗(まみ)れた人とは対極にいるリーダーたち、本来あるべき自分の使命というものを日頃から考えていて、そして、リーダーに立ったときに、本当にそういう土壇場が来たときに、それがそのまま出た人たちを書かせてもらったわけです。