依存症は、何年断酒しても完治しない
小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著は『上を向いてアルコール』(写真:鈴木愛子、以下同) |
葉石かおり(以下、葉石):浅部先生は肝臓が専門の医師ですが、ご自身も酒好きで、プロフィールには「好きな飲料はワイン、日本酒、ビール」と書かれています(笑)。そんな浅部先生に「アルコール依存症」という呼び方について、まずお伺いしたいと思います。これって、昔は「アルコール中毒」、通称「アル中」と言われることが多かったのではないでしょうか。
浅部伸一(以下、浅部):そうですね、中毒というのは、毒性のある物質で身体に障害が起こったり、病気になったりすることを指します。だから今でも、アルコールを短時間にたくさん摂取した結果、倒れてしまったりするのは「急性アルコール中毒」と呼んでいます。
一方で依存症というのは、毒物そのものの害というよりも、ある物・ことをやめたくてもやめられない精神状態になることです。
小田嶋隆(以下、小田嶋):私もかつてアルコール依存症になり、その後20年にわたって断酒しているのですが、かつての主治医は、「アルコール依存症のほうが医学的には正しいけれど、その言い方は患者を甘やかすことになるから好まない」と言っていましたね。
「依存」というと「病気で苦しんでいるかわいそうな人」みたいなニュアンスが出てしまう。いや、病気なのは確かなのですが、それで本人が「病気だから飲んじゃうんだよね」と思っていたら絶対治らない。だからあえて、「アル中」と言っていたそうです。
葉石:厳しい先生ですね……!
小田嶋:その先生は、「アル中を克服する」という言い方も間違っていると言っていましたね。いったん依存症になった人は、何年酒をやめていようと、それは坂道の途中でボールが止まっているような状態なのだと。頭の中には「飲み出したらやめられない回路」がしっかり組み込まれているから、断酒後何年たっても、一度飲んでしまったら、ボールはごろごろと坂を転げ落ちていく、と言っていました。
「元アル中患者」は、1杯目を飲まないで我慢することはできるんですよ。でも、もし1杯目を飲んでしまったあとに2杯目を我慢することは、絶対にできません。
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