絵を描くことによって起きたフレームの変化がマネジメントにおける気付きをもたらしたのですね。

長谷部:こういう例もあります。ある大手企業でEGAKUプログラムを全社に展開するプロジェクトがありました。いわゆるパワハラととられかねない行動が目立つ上司の方がいらっしゃって、EGAKUプログラム受講経験のある部下の方々があの手この手を使ってその上司にもEGAKUプログラムを受けさせたのです。

 上司の方がEGAKUプログラムを受けた後、非常に印象深い感想を口にされました。次のような内容です。

 「私は絵が苦手で本当に参加したくないと思っていた。だがプログラムで自分の表現を一度も否定されないということを経験し、なんて心地よいことなのかと感じ入った。私は仕事で部下に頭ごなしに言ってしまうことが多かったが、これからは他者を否定せず受け入れることを心掛けたい」

 部下の方々は驚きとともに「本当かな」という気持ちを持ったそうですが、後日談として「受講以来、確実に話しやすくなった」という感想を複数の部下の方から伺っています。

ホワイトシップの長谷部貴美社長。同社でアートプロデューサーを務める。
ホワイトシップの長谷部貴美社長。同社でアートプロデューサーを務める。

想像もしていなかった自分が出てくる

頭の中に浮かんできた言葉を手で書く「ジャーナリング」や「ライティングセラピー」が注目されています。EGAKUプログラムは手を使って絵を描きます。手という身体を使う効果をどう見ていますか。

長谷部:私たちは手を使うこと、あるいは絵を描くことについて科学的な研究をしているわけではありませんが、受講者の様子を見ると、手を使って絵を描くという行為は集中した状態を誘発します。その人の心に強く訴えかける何かがあるのだと確信しています。

 絵を描いていると、絵を描く前までの自分が想像もしていなかった自分が出てくる、ということがしばしば起きます。人はその状態を求めます。谷澤が問う「なぜ人は絵を描くのか」への答えの一つなのかもしれません。

 私たちはEGAKUプログラムを「創造性開発」ではなく、「創造性回復」のためのものだと説明しています。人はもともと創造性を持っていて、それを引き出す筋肉を鍛える、という感じです。これまでの受講者が描いた1万点以上の作品を見ていると、創造性を開発する必要などない、とつくづく思います。

 心の豊かさや社会の持続性を重視する時代だと言われています。そのような時代にあって一人ひとりのビジネスパーソンが既存の思考のフレームを超えることが何よりも必要ではないでしょうか。

 絵を描くことで一人ひとりの創造性を回復する。それによって21世紀に合った力が育まれる。こう考えています。