誰でも「自分が表現したい絵」を持っている

希望して受講した人は別にして、研修プログラムの一環で受けに来た人に「やらされ感」が出たりしませんか。

長谷部:最初のうち、「えーっ」と抵抗感を露わにする方もおられます。でも、このプログラムに参加して描けなかった人は一人もいません。

 EGAKUプログラムに鑑賞と創作があると申し上げましたが、創作、つまり絵を描くパートの中にも「自分の絵を見る」という鑑賞の要素が入っています。自分の絵を鑑賞しながら、より自分が納得いく表現を追求することになります。

 受講者の様子を拝見していると「会社の研修だから仕方なく参加した」といった雰囲気だった人でも「本当はこう描きたいのにそうなっていない、どうしたらいいか」と自分の絵に対して不満な点を見つけ、それを改善しようと試行錯誤を始めます。

 描くことに消極的に見えた人でも「自分が創作したい絵」のイメージを実際には持っていたわけです。非常に深いことです。絵を描くという行為は人間の根源的な活動なのだと改めて感じます。

 最終的に皆さん絵を描き、「楽しかった」「びっくりした」という感想を言って帰られます。リピーターの方も多く、残業続きでお忙しい中でも「リフレッシュできる」ということで、仕事の合間に来られる方がいらっしゃいます。

「びっくりした」とはどういう意味ですか。

長谷部:ご自身の中で思考のフレームが変わる、あるいは緩くなったり、ずれたりする、ということが起きるのです。フレームとは人が物事を認知し、思考するとき枠を指します。一定のフレームがあって、人それぞれの思考のパターンをつくり出していると考えられています。

 EGAKUプログラムを受講すると、そのフレームが変わる。この変化は受講者ご自身にとってとても大きなインパクトになります。

なぜフレームが変わるのですか。

長谷部:絵の鑑賞を通じてご自身の感じ方や他者の感じ方を認識する。ここが大事とお話しました。それはフレームが変わるきっかけの一つです。

 非言語表現である絵を描く体験によってもフレームは変わります。テーマについてご自身なりに向き合い、それを絵として置き換える作業は普段と違う頭と体を使うからです。特に「絵を描くのは苦手」「私は描けない」という先入観をお持ちの方でしたらなおさら、絵を描く実体験を通じて大きくフレームが変わるはずです。

 多くのビジネスパーソンは言語による表現に慣れていますが、非言語で表現する機会は仕事上、あまりありません。EGAKUプログラムで絵の鑑賞と創作をするだけでも、受講者ご自身が十分に自覚できるフレームの変化が起きるのです。

 フレームが変化せずとも、ご自身が持っているフレームを自覚するだけでもEGAKUプログラムの効果はあったといっていいでしょう。実際、ご自身のフレームを確認して、「これでよいのだ」と自信を取り戻して元気になる参加者もいらっしゃいます。

 ある参加者の女性が、こんな感想を述べてくださいました。「怒り」というテーマを設定して絵を描き始めた時、「怒りの感情を自覚して表現することは、とても幼稚なことだと思っている」ご自身の考え方に気付いたそうです。

 

 描いているうちに「怒りは大切なものを守るために生ずるものだ」という発想が浮かび上がり、さらに「それなら怒りを表現している人は何か大切なものを守ろうとしているのではないか」「そうであれば怒りは相手を知るためのきっかけとなるし、自分のことをより深く知ることになる」という気付きが起きたと仰っていました。

 この方はそれ以来、怒りの感情に対して苦手意識がなくなり、結果として部下のマネジメントが楽になったそうです。自分の怒りを押さえつけず適切に表現できるようになり、また相手の怒りの表現に対して怖がらずに向き合えるようになったともコメントしています。

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