若い頃メンタルの不調に陥っていた私は頭の中で流れている言葉を「ひたすら手で書きなぐる」手法に取り組み、不調を乗り切った。手で書く習慣によってビジネススキルを高めることもできた。その体験を前回紹介した。
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 心理学やビジネスコーチングの専門家たちは「頭の中に浮かんでくる言葉を書きなぐる」ことの効果を、学術的な検証結果を交えて主張し始めている。

 今回、レジリエンスの専門家である久世浩司氏(レジリエンス・コンサルティング代表取締役/ポジティブサイコロジースクール代表)と、筆記によるセラピー手法「ジャーナリング」の普及・啓発を進めている吉田典生氏(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート理事)のお二人に「手で書くこと」の可能性を尋ねた。

レジリエンスのコンサルティングと「手で書くこと」の関連を教えていただけますか。

久世:私はレジリエンスを「逆境や強いストレスに直面した時に適応するための精神力と心理的プロセス」と定義しています。精神力とプロセスを身に付けるためのプログラムを提供し、考え方を広める活動に取り組んでいます。

 並行してポジティブ心理学に着目しており、ポジティブサイコロジースクールという団体の代表を務めています。ポジティブ心理学は人それぞれが備える強みや美徳といった側面に着目して個人や組織の活性化を狙うものです。スクールではビジネスパーソン向けに、レジリエンスの考え方とポジティブ心理学を活用するトレーニングの講座を提供しています。

 逆境や強いストレスに適応するためにも、自分の強みに注目するためにも、手書きは有効な方法だと考えます。

前者について自分の体験を言いますと「自分の頭の中に浮かぶ言葉を紙に書きなぐる」というやり方を長年続け、精神の不調を克服してきました。久世さんも紙に書く習慣をお持ちだと聞きました。

久世:不安や心配などネガティブ感情を切り替えるために、音楽を聴く、軽いジョギングをする、寝る前に15分程度の瞑想をするといったことを習慣にしています。

ライティングセラピーをやってみよう

 特に嫌なことがあった場合、コピー用紙を取り出して、思いのままに書きなぐっています。「ライティングセラピー」と言われ、臨床心理士にも使われているエビデンス(証拠)のある方法です。

 ネガティブな感情は粘着性があってしつこく、対処しないでいると延々と出てきます。放っておくと、不安症や抑うつ症状の原因にもなります。

 ですから、自分が意識している対象を別のものに切り替える気晴らしの習慣を持つことはとても大事です。運動をはじめ幾つかの方法があり、その一つがまさに筆記です。

 米国の心理学者であるジェームス・W・ペネベイカー氏の研究によると、心の内にこもった負の感情を筆記し、表に出すことはセラピー効果、つまり感情を落ち着かせる効果があるとされています。

レジリエンス・コンサルティングの久世浩司代表取締役。ポジティブサイコロジースクール代表も務める
レジリエンス・コンサルティングの久世浩司代表取締役。ポジティブサイコロジースクール代表も務める

心のもやもやを解消して静かな状態を保つために「ネガティブ感情を書き出すこと」は学術面から効果が実証されているわけですね。

久世:ええ。私自身、もやもやした感情を言葉にして書き出し、客観的に見つめ直すことで、ネガティブ感情を整理しやすくなりました。

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