まず書籍が推奨していたキッチンタイマーを雑貨屋で購入した。仕事用のノートとは別に、なぐり書き専用のノートを常に持ち歩いた。空き時間を見つけてはタイマーを3分あるいは5分に設定し、頭の中に浮かんでくる言葉をひたすら紙に書きなぐるようにした。

 人は言葉を使って物事を考える。諸説あるが1分間に数十から数百もの思考作業を並行して言葉を使い、処理していると言われる。放っておくと頭の中でとりとめもないことを考え続けてしまいかねない。そうした頭の中をとめどなく流れている言葉をとらえて、ひたすら手で紙に書いていく。

 当時、私は出版社に勤務し、既に5年目に突入していた。仕事として文章を書くことを選んでいたにもかかわらず、記事でもない、企画書でもない、自分の頭の中に浮かんでくる言葉をひたすら書く行為に当初は戸惑った。

 それでもほぼ毎日続けられたから、自分として何かピンとくるものがあったのだろう。しばらく続けていくと、書くことから爽快感が得られると自覚できた。当時味わった爽快感は15年経った今でも覚えている。

 手で書きなぐることによる爽快感が功を奏したのか、この頃から少しずつ行動力が増し、仕事を含めた生活全般の質が上がり始め、次第に精神科に通う頻度が減っていった。

 体を鍛えることに関心を持つようになり、喫煙の習慣も止められた。スポーツクラブのプールで軽く泳いだ後、カフェに行ってノートを開き、「頭の中に浮かんでくる言葉を書きなぐる」ことが生活の楽しみになった。こうして仕事や生活で前向きな目標を持てるようになっていった。

2種類の「頭の中に浮かぶ言葉」

 頭の中に浮かんでくる言葉を紙に書き、そのノートを見返す。頭の中でどんな言葉が紡がれているのかをそのまま「見える化」する行為と言える。

 見える化とは、改善の対象を客観的にとらえ、改善に寄与する箇所を特定することを指す。「頭の中に浮かんでくる言葉を書きなぐる」ことを始めた当時の私は、書き付けた紙を読み直して、「自分の思考の状態や心理状態を客観視し、妥当性を検証する」ようになった。こう解釈できる。

 紙に書いてみると頭の中に浮かんでくる言葉は2種類に分けられた。1つ目は自分の発想、考察、所感である。「あれをやろう」「これをやろう」「これはこうしたほうがもっと良くなるのではないか」「このやり方ではうまくいかなかったから次回はこうしよう」といったものだ。

 これらは仕事や生活上のアイデアやポジティブな見解であり、何か行動を起こす際に役に立つ。建設的であり、「自分の人生を作る言葉」と表現して良いだろう。

 2つ目は「こんなことをやってもうまくいかない」といった、自分に「駄目出し」をする否定的な言葉である。過去の嫌な記憶の無意味な再生ループや、そこから紐付いた「将来こんな失敗をしそうだ」といった妄想、「失敗したらこんなことを言われて嫌な思いをするかもしれない」といった懸念などである。私の場合、これらには大概、鮮明な映像や音声が伴っていた。

 後者は「自分の人生をとどまらせる言葉」と言えよう。思考のループが始まり、自分が行動を起こす前から「あれはいけない、これはいけない」と危険や懸念にばかり着目し、行動をとどまらせるからだ。

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