長井氏らとパンゴリンが共同研究を開始した後、同社のロボットの内部設計は一新された。ROSを採用するという決断や、SLAMなど自己位置特定のための技術検討なども、長井氏らが主導して実施した。
ROSは研究開発には向いているものの、商用には不向きとの声もあるが、「屋内環境であれば、ROSのSLAM機能も商用で十分使い物になる。来店客が動き回るなど、ノイズがある動的な環境であっても特に問題なく運用できることが分かった」(長井氏)という。
●SLAMの採用例

IoTデータ収集の仕組みも実装
長井氏らはロボットの国際競技会「RoboCup@Home」などに10年近く参加し好成績を収めるなど、ロボットの競技会の分野でも実績を残してきた。パンゴリンとの共同研究では、そこで培ったロボットの実装技術も生きた。
長井氏の研究テーマは「ロボットと人間とのインタラクション」である。パンゴリンと組んだのもSLAM機能を実装することが目的ではなく、レストランという実環境で人とサービスロボットのやり取りがどうあるべきかを実証したいという狙いからだ。
長井氏としては特に音声による人とロボットとのコミュニケーションに興味を持っているという。「将来的にはパンゴリンのロボットでも配膳機能だけでなく、言語による対話機能を強化していきたい」(長井氏)。
長井氏らは科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)のプロジェクトで、膨大な音声データから教師なしの機械学習でロボットに言語や音素のモデルを獲得させる研究を手掛けている。今後は、そうした成果もパンゴリンのロボットに反映させていく意向である。
対話機能を強化していくには、現場でのデータ収集が欠かせないが、パンゴリンのロボットには既にセンサーのデータをIoT(モノのインターネット)で収集する仕組みが実装してある。
同社CTOの丁氏は「我々は単にロボットというハードウエアを手掛けるだけでなく、クラウドなども含めたサービスの提供企業になっていく。ロボットを通じた広告事業、センサーのデータを用いた来店者のマーケティング分析、ビッグデータの提供など、ロボットの基盤を生かしていく」と語り、先進国のロボット企業顔負けの戦略を持っている。
2017年には日本市場に進出予定のパンゴリン。その動向は国内のロボット産業にも影響を与えるだろう。


進藤 智則
日経Robotics 編集長
Powered by リゾーム?