長井氏らとパンゴリンが共同研究を開始した後、同社のロボットの内部設計は一新された。ROSを採用するという決断や、SLAMなど自己位置特定のための技術検討なども、長井氏らが主導して実施した。

 ROSは研究開発には向いているものの、商用には不向きとの声もあるが、「屋内環境であれば、ROSのSLAM機能も商用で十分使い物になる。来店客が動き回るなど、ノイズがある動的な環境であっても特に問題なく運用できることが分かった」(長井氏)という。

10万円台のロボット掃除機にも利用され始めた
●SLAMの採用例
10万円台のロボット掃除機にも利用され始めた<br />●SLAMの採用例
米グーグルが2010年、自動運転車の開発に使ったことでSLAMへの注目が高まった。今ではドローンなどにも搭載される。SLAMを搭載したロボット掃除機は10万円前後と高価であるが、部屋の中のどの領域を掃除したのかも把握しているため、ランダムに動く機種より掃除時間が短い(写真=左:Sipa USA/amanaimages、中:Polaris/amanaimages、右:アイロボット提供)

IoTデータ収集の仕組みも実装

 長井氏らはロボットの国際競技会「RoboCup@Home」などに10年近く参加し好成績を収めるなど、ロボットの競技会の分野でも実績を残してきた。パンゴリンとの共同研究では、そこで培ったロボットの実装技術も生きた。

 長井氏の研究テーマは「ロボットと人間とのインタラクション」である。パンゴリンと組んだのもSLAM機能を実装することが目的ではなく、レストランという実環境で人とサービスロボットのやり取りがどうあるべきかを実証したいという狙いからだ。

 長井氏としては特に音声による人とロボットとのコミュニケーションに興味を持っているという。「将来的にはパンゴリンのロボットでも配膳機能だけでなく、言語による対話機能を強化していきたい」(長井氏)。

 長井氏らは科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)のプロジェクトで、膨大な音声データから教師なしの機械学習でロボットに言語や音素のモデルを獲得させる研究を手掛けている。今後は、そうした成果もパンゴリンのロボットに反映させていく意向である。

 対話機能を強化していくには、現場でのデータ収集が欠かせないが、パンゴリンのロボットには既にセンサーのデータをIoT(モノのインターネット)で収集する仕組みが実装してある。

 同社CTOの丁氏は「我々は単にロボットというハードウエアを手掛けるだけでなく、クラウドなども含めたサービスの提供企業になっていく。ロボットを通じた広告事業、センサーのデータを用いた来店者のマーケティング分析、ビッグデータの提供など、ロボットの基盤を生かしていく」と語り、先進国のロボット企業顔負けの戦略を持っている。

 2017年には日本市場に進出予定のパンゴリン。その動向は国内のロボット産業にも影響を与えるだろう。

ロボットとAI技術の専門誌。ロボットビジネスに携わるプロフェッショナルに向け、数年後のロボット業界を見通す情報をお届けします。

進藤 智則
日経Robotics 編集長

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。