イヤホンを使い異言語間で会話

 簡単な操作なら声すらいらない。首を縦に振ると「はい」、横に振ると「いいえ」の意味。電話がかかってきたら、うなずくだけで応答できる。音楽再生中に首を右に振れば、次の曲に進むこともできる。Xperia Earは加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵し、首の傾きや動きをリアルタイムで検知しているからだ。

 「日常生活でも『はい』と返事する代わりに、うなずくことがある。首の動きで操作するのは、声よりも自然かもしれない」(ソニーモバイルのスマートプロダクト商品企画の青山龍氏)

ソニーモバイルコミュニケーションズ●2月に発表した「Xperia Ear Duo」
装着する部分を空洞に加工し、耳を塞がずに音楽を楽しめるように工夫した

 同社は2月、スペイン・バルセロナで開かれた世界最大のモバイル機器展示会で、最新機種「Xperia Ear Duo」を発表した。特徴は、「スマホではなくイヤホンに搭載するCPU(中央演算処理装置)でセンサーなどの情報を処理する」(ソフトウエア開発担当の廣瀬洋二氏)こと。イヤホンは超小型の「コンピューター」へと進化しつつあるわけだ。

 “賢く”進化したイヤホンは、スマホの操作手法だけでなく、人々のコミュニケーションのあり方すら変える潜在力を秘めている。

 背景にあるのが、省電力技術の進展だ。スマートイヤホンの多くは、有線ではなく無線でスマホと接続するため、独自電源が必要になる。音声や情報をやり取りする際に電力を消費するが、大容量電池を搭載すると重くなり、イヤホン自体の使い勝手が悪くなる。「Bluetooth Low Energy」など低消費電力の無線規格が普及したことが、新技術に道を開いた。

 ここに商機を見いだしたのはソニーモバイルだけではない。国内外の様々な企業がイヤホンの機能開発に乗り出している。

 LINEと韓国ネイバーが狙うのは「同時通訳」の実現だ。相手が話した言葉を瞬時に自動翻訳し、イヤホンからは別の言語の音声が聞こえるといった仕組みだ。ネイバーの翻訳システム「Naver Papago翻訳」をイヤホンに搭載できるよう開発を加速。2018年内に、韓国で発売する予定だという。イヤホンのみで同時通訳が可能になれば、相手の顔を見たまま話すことができ、より自然なコミュニケーションがとれる。

NEC●NECのイヤホン(試作品)が搭載する主なセンサー

 スマートイヤホンが扱うのは、音に関する情報だけではない。NECはGPS(全地球測位システム)や地磁気などのデータをイヤホンで分析して現在地を特定し、道案内などに活用する計画に乗り出した。カギを握るのが音響版の「AR(拡張現実)」技術である。

 人間の聴覚は、極めて高い「補正機能」を持っている。目を閉じていてもどの方向から足音が近づいてくるかが分かり、体の向きを変えても同じ場所から音が聞こえてくるように感じるのは、脳が様々な情報を組み合わせて分析しているからだ。この仕組みをイヤホンだけで再現するのがNECの狙いだ。

 左右のイヤホンから出る音量を変えるだけでなく、両耳の鼓膜を震わすタイミング、高音や低音の減衰具合などを細かく制御。それに位置情報を加えることで、イヤホンを装着した人物が歩き回っても、特定の位置から音が出ているかのように「人間の脳を誤解させる」と、新事業推進本部ヒアラブルグループの古谷聡氏は説明する。