電子ミラーのコストは5倍以上

 利点の多い電子ミラーだが、実用化には課題も残る。関係者が口をそろえるのがコストの高さだ。自動車部品メーカーの市光工業によれば、電子ミラーのコストは「普及当初は従来のドアミラーに比べて5〜10倍」(同社イノベーション統括グループ先行開発部部長の大貫宏靖氏)になる見込み。このコストの壁を付加価値でどう埋めるか、自動車メーカーは頭を抱えている。

 ディスプレーの取り付け場所もまだ定まっていない。R46では、クラスIIIのディスプレーは運転者の目の位置(アイポイント)を中心として、左側の状況は左のディスプレーに、右側の状況は右のディスプレーに表示することを規定した。ダッシュボードやフロントピラー、ドアトリムなどが考えられるが、「自動車メーカーごとに考えが違っており、最適解は見つかっていない」(独ボッシュの担当者)。

 さらに、ディスプレーの設置場所の候補となっているところには、既にエアコンの吹き出し口やエアバッグなどの部品が配置されている。自動車メーカーはプラットフォームのモジュール化を推進中で、電子ミラーの部品も部品共通化を前提に設計される。このため、電子ミラーを採用するのは全くの新型車か、モジュールの更新サイクルのタイミングに合致する車両になる。

 自動車メーカーの期待と苦悩に応えるべく、部品メーカーも開発を加速させる。仏ヴァレオは、2018年に電子ミラーの量産を開始することを決めた。国内ミラー大手の村上開明堂も2018年度の量産を予定する。

 既存の後写鏡メーカーだけではなく、電子ミラー市場には新規参入組も多い。その急先鋒がパナソニックだ。同社はドアミラー世界3位、スペインのフィコサ・インターナショナルと資本・業務提携した。フィコサが持つ自動車メーカーの顧客基盤を活用して電子ミラーを売り込む戦略である。パイオニアやJVCケンウッドなど、カメラ技術に強い電機メーカーも提案を始めた。

 部品メーカーが取り組む開発テーマは大きく2つある。従来の後写鏡と同等の表示・確認性能を備えることと、コスト増に見合う付加価値を提供できるかどうかだ。

 前者について、従来の後写鏡で見えていたものが確認できなくなることはあってはならない。映像の表示の遅延やゆがみなども抑える必要がある。

 例えば、デンソーは「嘘のない映像を運転者に伝えること」(同社走行安全技術4部第3技術室長の高田貴史氏)を重視して電子ミラーの開発を進めている。2015年12月に東京大学発ベンチャーのモルフォと資本・業務提携したのも、電子ミラーの開発を強く意識したからだ。「モルフォはスマートフォンメーカーなどに技術を提供しており、一般利用者との接点がある。適切な映像の見せ方や情報の伝え方など、社内にはない知見を活用したい」(高田氏)との狙いがある。

 R46ではカメラやディスプレーの性能や形状などを規定している。先述したディスプレーの取り付け位置もその一つ。カメラ撮影からディスプレーへの表示までの遅延時間は、200ミリ秒以内に抑えることとした。だが、高速走行時では表示の遅れが目立つことから、「100ミリ秒以内で自動車メーカーに提案している」(ヴァレオジャパンCDAジャパン/DVSビジネス開発主管の板垣信孝氏)という。

 カメラでは60m後方を確認できるようにする。この要件を満たすためには、100万画素超のCMOSイメージセンサーが求められそうだ。フレームレートは30フレーム/秒でR46の基準を満たせるが、「遅延を考えると60フレーム/秒以上が望ましい」(板垣氏)。

 ディスプレー側でも遅延を抑える。フレーム周波数が60ヘルツの品種が多いが、ジャパンディスプレイ(JDI)は240ヘルツ品を提案する。フレーム周波数が遅いと、動画がぼやけて見える。JDIの開発品は、フレーム周波数を4倍に高めることで「ぼやけ」を解消した。高速撮影できるカメラと組み合わせた試作品では、カメラによる撮影から表示までの遅延時間を4.35ミリ秒に抑えた。

 長期の信頼性も欠かせない。特にドアミラー部は、「風圧や振動などが直撃するため、想像以上に厳しい環境」(市光工業の大貫氏)だ。このため、「カメラの構造や取り付け方など、堅牢性のノウハウが品質を大きく左右する」(同氏)とみる。この他、ハッキングに対するセキュリティーの確保も必要になる。