医療応用には倫理的な課題も

 バイオ業界に革新をもたらしつつあるゲノム編集ではあるが、“事件”は起こるべくして起きた。中国の研究チームが2015年春、ヒトの受精卵にゲノム編集を施したと発表したのだ。

 当然のことながら、世界中の研究者から倫理的に問題があると大きな批判を浴びた。新しい治療法の開発などにつながるのであれば、受精卵を対象にしたゲノム編集も基礎研究や非臨床に限って認めようという機運はある。ただ、仮にゲノム編集した受精卵から新しい生命が生まれた場合、その結果に誰も責任が持てない。

 ダウドナ教授は「ゲノム操作を受けた人間はまだ生まれていないが、もはやSFだけの話ではない」と警鐘を鳴らしている。人為的に機能をエンハンス(増強)した「デザイナーベイビー」を生み出す道につながりかねないだけに、その運用は慎重になるべきだ。

 遺伝子をより正確に、より簡便に、より速く改変できる画期的なテクノロジーを人類は手にした。だからこそ、その使い方を誤れば、取り返しのつかない禍根を残すこととなる。

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(写真=尾関 裕士)

久保田 文
日経バイオテク副編集長


(日経ビジネス2016年7月4日号より転載)