カネカの製品の特徴は自然由来であることと、添加する量が食品の総量に対して0.02~0.2%と極めて少ない量で効果を発揮することにある。カネカ食品事業部の寳川厚司幹部職は「安全な品質や費用対効果の高さをアピールしていきたい」と語る。

 関西大学の河原教授は、カネカ以外とも積極的に共同研究を進め、不凍物質の応用範囲を広げようとしている。そんな中、食品の次に期待されるのが航空や臓器移植・再生医療の領域だ。

 河原教授は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が進める航空安全技術の研究開発プログラムに参画。エノキタケの不凍多糖を粉末状にしたものを航空機の翼にコーティング剤として吹き付け、安全性を高める研究を進めている。飛行機は飛行中、翼などの機体表面に氷が付着することでコントロール能力を失う恐れがある。不凍多糖をあらかじめ散布しておくと、表面に付着した氷結晶が大きくなるのを防げるという。

(写真=上:朝日新聞社、中:アフロ、下:時事通信)

 不凍物質を使えば、臓器や再生組織を現在より長期で安定的に凍結保存できるようになる。産業技術総合研究所とニチレイフーズは共同で、不凍たんぱく質がマウスの細胞の保存期間を延長させられることを立証した。河原教授は「不凍物質は航空産業や医療の分野に至るまで、様々な課題を解決する可能性を秘めている」と話す。

 不凍物質が冷凍技術の「ソフト」面での革新だとすれば、「ハード」面の冷凍装置で注目を集めるのが、ベンチャー企業のアビー(千葉県流山市)だ。

iPS細胞でも活用

 同社が開発したCAS(セル・アライブ・システム)は、「過冷却」と呼ぶ状態を生み出すことで、冷凍中の細胞組織が破壊されるのを防ぐ。過冷却とは、水などが液体から固体に変わる温度になっても液体のままでいる現象を言う。

細胞内の水分子を振動させて氷結晶の成長を抑えるCAS(セル・アライブ・システム)。開発したアビーの大和田哲男社長は「医療の分野でも様々な活用法が考えられる」と話す(写真=都築 雅人)

 CASでは、電磁波などで細胞内の水分子に揺らぎを与えることで過冷却の状態を生み出す。そうしながら庫内の温度を下げた後、瞬時に凍結させて氷結晶の成長を抑える。食品は糖度や脂肪によって凍る温度が細かく異なるが、CASは素材に合わせて温度や冷却速度を微調整できる。既にある冷凍装置に、後付けでCASの機能を組み込むことも可能だ。

 CASを生み出した大和田哲男社長は、約40年にわたって冷凍技術に携わってきたベテラン。かつてはケーキの冷凍装置を製造販売していたが、二十数年前、「日本の和食料理研究家の人たちに『冷凍で細胞が傷んだ肉や野菜は使えない』と言われ、『ならば実現してみせよう』と一念発起した」。