
スポーツメーカーでも、ITを活用した野球用品を開発する動きが出てきている。大手のミズノは今春、高感度磁気センサーを使ってボールの回転数や速度などを解析できる「MAQ(マキュー)」を発売する予定。価格は本体と充電器を合わせて4万円弱になる見込み。テクニカルピッチと同様に、スマホの専用アプリで簡単にデータを管理できる。スポーツメーカーならではの知見や営業網を生かし、プロ野球・大学野球で実績を積み上げていく考えだ。
横浜DeNAベイスターズ
●横浜DeNAベイスターズの「超☆野球」の取り組み
超☆バッティング スイング中にバットの重心を移動させることで、子供でもホームランが打てるほどボールが飛ぶ |
超☆ピッチング ラクロスの道具を改良し、遠心力を持たせることで人間の限界を超えた剛速球が投げられる |
超☆軌道予測 ハイスピードカメラでボールの軌道データを収集。投球軌道や打球の落下点を分析 |
超☆ボール 加速度センサーとジャイロセンサーを使い、回転数やスピードでボールの色が変化 |
野球のプレー動作そのものをITで進化させようとする取り組みもある。ディー・エヌ・エー傘下のプロ野球チーム、横浜DeNAベイスターズが昨年から始めた「超☆野球」がそれだ。
連携するのは、東京大学大学院の稲見昌彦教授らが立ち上げた一般社団法人「超人スポーツ協会」。人間の身体能力を拡張し、「テクノロジーでスポーツを再発明する」ことを目指している。
人間の「2倍」の球速を実現
超☆野球では、一般人でもプロ野球選手や漫画のようなプレーを体感できる、「新しいスポーツとしての野球を創造する」ことが目標。人気漫画「巨人の星」でトレーニングに使われた、「大リーグボール養成ギプス」を思い浮かべる人もいるだろう。超人的な能力を、ITを使い身近に実現しようという試みだ。
昨年6〜9月にかけて、ハッカソン形式でのワークショップを開催。大学研究者などが自由に発想したアイデアを基に6種類の試作品などを開発した。
例えば慶応大学大学院のメディアデザイン研究科などが参加した「超☆ピッチング」。ラクロスのスティックと3本の強靭なバネを合体させ、人間の腕の2倍の長さを持つピッチング用機械を開発した。背負い投げの要領で遠心力を働かせ、理論上は本人が持つ力の「2倍の速度」でボールを投げられるという。大谷選手を凌駕する、200kmを超える剛速球を投げることも夢ではないわけだ。
介護分野で使われる人工筋肉技術と画像分析技術を応用し、ボールが来たタイミングに合わせて人体に電気を流すアイデアもある。打者の腕を「自動的」に動かすことで、誰でもホームランが打てるようになるという。
これらはまだ実験段階で、ビジネス展開までの道のりは遠い。それでも、プロジェクトを担当したベイスターズの木村洋太執行役員は、「野球をもっと面白くすることで、子供たちの興味の幅を広げていきたい」と話す。
プロ野球では、観客動員数が増えスター選手が毎年登場するなど、明るいニュースは多い。だが、将来を担う中学・高校の野球人口は減少傾向。日本中学校体育連盟の調査では、中学校の軟式野球男子部員の人数は2007年度の約30万5000人から、16年度には約18万5000人まで4割弱も減った。
こうした状況の中、野球の魅力を若い世代に伝え、より効果的な育成方法を生み出すことは、社会的な意義に加え、新たなビジネスチャンスにもなる。IT活用がそれを支える新たなトレンドを生みそうだ。
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