球の「伸び」、秘密は回転数

 球速はもちろん、回転数や回転軸の傾き、ストレートかカーブかといった球種に至るまで1球ごとに把握できる。投手がボールをリリースする際の強さや構えてからの時間を基に、腕の振り方なども確認できる。

 例えば三振を狙える「伸びのある球」は、一般的にボールの回転数が多く、打者の手元で球速が落ちにくいため、数字以上に速く感じるとされている。収集したデータを分析すれば、伸びのある球を実現するために必要な回転数を可視化できる。データをコーチや監督、選手同士で共有し、投球フォームの改良などに活用できるというわけだ。

 「投手の育成には一人ひとり異なる課題がある。回転数などの重要な数字を確認し、選手自身が研究できるようになるのは非常に大事なことだ」。テクニカルピッチをこう評価するのは、敬愛大学野球部のコーチを務める中村稔氏。1957〜69年に読売巨人軍で活躍し、V9にも貢献した往年の名投手だ。

 敬愛大学野球部では製品開発への協力も兼ねて、いち早くテクニカルピッチを導入。中村氏のプロとしての経験と指導力にITを組み合わせることで投手力をメキメキ向上させ、春リーグでの躍進を目指している。同大学以外にも、既に複数の大学などで導入されているという。

 アクロディアは電子部品大手のアルプス電気の協力を得て、約3年をかけ開発した。特に重視したのが、プロ野球選手が満足できる機能を備えつつ、中高・大学の野球部でも手が届く製品にすることだ。

 テクニカルピッチの価格は2万9700円(税込み)。データを取得できる投球回数は1万回程度(参考値)で、一般的な練習であれば十分に実用に耐える仕様になっている。

 投球内容のデータ化は、米大リーグでは既に一般化している。軍事用レーダーを応用した高性能の軌道測定器「トラックマン」は特に有名で、球速やボールの回転数、打球の角度や飛距離まで計測できる。大リーグでは全30球団が導入し、選手のパフォーマンスを高めることも実証済みだ。日本のプロ野球でも巨人などが採用している。

 選手のパフォーマンスを分かりやすく示せれば、球場で試合を観戦しているファンにとっても楽しみが広がる。

 ただ、トラックマンの場合は導入に数千万円かかることもあり、アマチュア野球にとってはハードルが高い。アクロディアでは、こうした点もテクニカルピッチが普及するカギとみる。

 アクロディアの堤純也社長は、「子供たちが自分の投球がどんどん良くなっていくのを実感し、野球に真剣に打ち込めるような環境を、ITでサポートしたい」と語る。一方、収集したデータをより細かく分析し、投球の改良をAI(人工知能)が指南してくれるような新サービスの開発につなげる構想もある。

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