スマホの登場で、ファッション産業が衰退する?

鷲田:『ツイッターの心理学』では、ソーシャルメディアが普及したことによる情報過多の問題にも触れられていますね。たしかに、受け取る情報があまりにも増えると、適切な取捨選択ができなくなって、大半の情報を捨てるだけになっていきます。これは大きな問題です。佐々木さんから見て、いまの情報環境というのはやはり過剰だと思われますか?

佐々木:僕は過剰である、と考えています。これは、『ツイッターの心理学』共著者の北村智と意見がやや割れているところなんですよね。彼は心理学出身なので、どちらかと言えばソーシャルメディアによって情報が過剰になったとしても、何気ない自己開示や感情の発露がカタルシス効果を持つならそれを尊重しよう、という立場。でも僕はもともと、情報とその価値を研究対象としていたので、そこには強く同意できない。ウェブの黎明期は、利用者が少なくて、発信される内容も練られて充実していたんですよ。その時代から見ると、今の状況は、やはり玉石混交の「石」が多すぎる、というのが僕の立場です。

鷲田:おお、シビアな意見ですね(笑)。

佐々木:情報の価値、というものをどう定義するかにもよると思いますけどね。哲学的には、そこに価値の優劣はないということになるのでしょう。でも僕としては、差異を生み出す、パターンを生み出す、そういうものが情報だと考えているんです。生物学的には、生き延びるために価値のあるものが情報だと言えます。そういう考え方をどうしてもしてしまうんです。

鷲田:ソーシャルメディアをダラダラ眺めたり、「ひまだ」とか書きこんだりしているのは、生存に役立たないですもんね。でも、『Twitter カンバセーション・マーケティング』にもデータが載っていますが、学生の1人あたりのTwitter月別訪問時間は約21時間半、女子学生に限って言うとひと月に約26時間訪問していると。

佐々木:このデータ、びっくりしました。そんなに学生はTwitterを眺めてるんですね。

鷲田:それだけソーシャルメディアに時間がとられているし、注意力も奪われているということだと思うんです。以前、ファッション学を専門とする同僚と、ITがファッション産業を滅ぼしているのではないかという仮説を立てて、調査してみたんですよ。IT環境が発達すると、直接人に会わなくてもよくなる。すると、それだけ服を買わなくなる人が増えるんじゃないかと。そして、データを採るとたしかにそういう傾向が見られたんです。

佐々木:へええ。

鷲田:ファストファッションが支持されているというのは、画一化されているということですよね。尖った格好をする人が減って、みんな無難な真ん中に集まってきている。その背景には、やっぱり過大な情報の伝播というものがあるのではないか、と考えたんです。情報が流通しているからこそ真ん中がどのあたりかわかるということと、情報そのものが人間の注意力を大量に消費しているので、他の産業に欲求が向かわないのかなと。

佐々木:現在、人間の認知的なリソースの多くは、明らかにスマホに向かっていますよね。そしてソーシャルメディアはスマホによって利用が促進されたサービスです。しかもウェブで記事を読むより、ソーシャルメディアはより多くの認知的リソースを必要とします。対人関係があるので、「あの人がこう言ってる、他の人はどう思うのか」など、処理する情報量が多くなるからです。都市部の人は、電車の中でもみんなスマホをいじっている。それで何が起こったかというと、独りでものを考える時間が失われてしまったんです。それを僕はすごく問題視しています。

鷲田:たしかにそうですね。家でもちょっと時間があれば、スマホをチェックするという人は多いでしょうね。

佐々木:ソーシャルメディアが普及することによる問題は、いじめや炎上関係に焦点があたることが多いのですが、僕としてはソーシャルメディアに触れている時間が長くなることによる人間の認知能力や脳への影響についても、もっと取り上げられるべきだと考えています。そして沈思黙考する時間が減ったことへの影響も。