日本のケータイは、ガラパゴスどころか未来を先取り

佐々木:日本には、生活の中でユニークな使い方をし始めるユーザーと、その声を拾い上げる傾聴力を持つメーカー、その両方がそろっている。だからユーザーイノベーションが起こる、ということでしょうか。

鷲田:基本的にはそうだと思っていますが、最近はメーカーの傾聴力のほうが落ちてきていると考えています。ユーザーの声を聞くのではなく、何かの論文に載っている、アメリカで流行している、といったことを真似するばかり。しかも、技術革新だけでイノベーションが起こせると思ってしまい、国内の競合他社より少しでも高機能なものを作ろうとする。それが、ガラパゴス化の本質だと思います。傾聴していれば、ガラパゴス化は起きないんです。

佐々木:なるほど。

鷲田:この「ガラパゴス化」という言葉は、日本の携帯電話が独自の進化を遂げてしまったがゆえに国際競争力がなくなったことについて野村総合研究所が名付けたものです。しかし、もともと日本の「ケータイ」は世界の携帯端末の未来を予見していたんですよ。メール機能やカメラ機能がついたのも、アメリカより日本のケータイが先でした。2000年に「写メール」が出てきたとき、これはおもしろいと思ってアメリカの動向を取材に行ったら、「日本ではカメラが普及していないのか?」「携帯端末でメールをするなんて、PCを持っていないのか」などわりと的はずれなことをいろいろ言われたんです(笑)。そもそもそこまで、海外では携帯端末が普及してなかったんですよね。この頃、ソニーは音楽再生機能を搭載した携帯電話も出しています。それらはすべて、2007年に登場するiPhoneの機能を先取りしていた、とも言えます。

佐々木:「おサイフケータイ」も、ついに昨年iPhoneで対応できるようになりましたね。

鷲田:日本が10年早かったですよね。『イノベーションの誤解』では、イノベーターと言われる人よりも、アーリーアダプターやアーリーマジョリティからのほうが、新しいアイデアが生まれやすいという実験の結果を紹介しています。アメリカでは、新しいサービスや商品が出てきても、一般ユーザーが入ってくる前に、最初のイノベーター集団がいいか悪いかを判断してしまうんですよね。経営的にも、じっくりサービスを育てるというより、初期にユーザーが増えないとすぐ見切りをつけてしまう。そうして、ユーザーは置き去りのまま売却されたり、サービスが終了したりする。

佐々木:でも日本はもう少し時間をかけて判断するため、ユーザーイノベーションが起こりやすいと。

鷲田:収益性はともかくとして、おもしろいとなるとわーっと広まりますよね。

佐々木:1980年代にヒッペルがユーザーイノベーションを提唱した頃は、ウェブがありませんでした。でも、その後ウェブがユーザーイノベーションを起こす場として使われるようになりました。国内のものとしては商品開発コミュニティサイトの「空想生活」や、商品のアイデアを募るサイト「たのみこむ」などが事例としてよくあげられていましたね。

鷲田:そうですね。

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