(前回から読む)
使い方の工夫がイノベーションを生む
鷲田祐一(以下、鷲田):『Twitter カンバセーション・マーケティング』での、ツイッター・ジャパン代表の笹本裕さんとの対談で、日本人はTwitterをアメリカでは想像もしなかったような使い方で楽しんでいる、という話がありました。

1968年生まれ。92年、一橋大学社会学部卒業後、電通に入社。その後、アーサー・D・リトル・ジャパン、NTTデータ経営研究所に勤務。2009年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了(政策・メディア博士)。現在、東京経済大学コミュニケーション学部教授。ソーシャルメディアとネット広告、情報サービス産業などの研究に取り組む。ソーシャルメディアの収益モデル史・社会史に関する15年以上にわたる調査を継続中。
佐々木裕一(以下佐々木):2015年に出された『イノベーションの誤解』でも、ユーザーがメーカーやサービス提供者の意図しない使い方をすることでイノベーションが生まれた事例を多数紹介されていますね。
鷲田:はい、私の研究テーマのひとつである、開発側ではなくユーザー主導で起こるイノベーション「ユーザーイノベーション」はもともと、1980年代なかばにMITのエリック・フォン・ヒッペル教授が提唱した概念です。私がユーザーイノベーションが起こるのを目撃したのは、博報堂の生活総合研究所に所属していたときでした。もともと番号通知が目的だったポケベルのディスプレイ表示機能を使ってメッセージを送る若者が現れ、メッセージでのやり取りが用途の主流になっていったこと。携帯電話の着信音を手入力できる機能を使って、メロディを登録するユーザーが現れ、「着メロ」サービスが急速に広まっていったこと。こうした事例を目の当たりにして、ユーザーイノベーションには可能性があると確信したのです。
佐々木:たしかに、日本では商品にいろいろ意見を言う人が多いのかもしれませんね。でも、一般ユーザーがインターネットなどで好き勝手言うなかで、製品化のアイデアとして役に立つ意見がどれだけあるのかなというのは疑問です。

1968年生まれ。91年、一橋大学商学部卒業後、博報堂に入社。生活総合研究所、イノベーション・ラボで消費者研究、技術普及研究に従事。2008年、東京大学大学院総合文化研究科博士後期過程を修了 (学術博士)。2011年、一橋大学大学院商学研究科准教授、2015年、同教授。ミクロ視点での普及学、グローバルマーケティング、ユーザーイノベーション論、未来洞察手法、デザインとイノベーションの関係などを研究している。
鷲田:僕としては、ユーザーがすごいアイデアを発信するところまでいかなくても、ユーザーイノベーションは起こる、と考えています。意見を言うというより使い方で表現する、というほうが近いでしょうね。例えば、最近シャープが蚊取り機能付きの空気清浄機を出したんです。これは、ASEANのユーザーからの要望だったそうです。誰かが、空気清浄機に虫が吸い寄せられるのを見て、「蚊取りに使えるんじゃないか」と気づいたわけですよね。そこがおもしろい。
佐々木:利用法を拡張する、というイノベーションは多そうですね。
鷲田:僕としては、これはもう利用法の拡張どころではなく、利用目的の変更だと思っています。もうデザインや機能からして、蚊取りに適したものに変えているのですから。ポケベルが呼び出し目的から、メッセージ交換目的に用途が変わったのと同じくらいの変化だと考えています。
佐々木:そういうユーザーの声は、ソーシャルリスニング(ソーシャルメディア上での人々の発現データを収集、調査、分析すること)や、アンケートなどのリサーチで拾っているのでしょうか。
鷲田:そうですね。そうすると、メーカーとしては驚くような使い方をしている人が見つかるわけです。
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