「ライフスタイルをデザインしたい」(吉本)

尾畑さんは長い歴史を持つ蔵元の五代目で、吉本さんはベンチャー起業家と、対照的な面もあります。尾畑さんは、なぜ蔵元を継ぐことを決めたのでしょう?

尾畑:私は造り酒屋の二人姉妹の妹として生まれました。小さい頃から仕込み蔵が好きで、私としては継ぐつもりだったんですが、両親が姉に婿を取って継がせてしまった。それならばと、私は東京の大学に行って映画配給会社に就職しました。

 ところが、就職が決まった頃、姉夫婦が出ていき、跡継ぎ不在の状態に。私自身は田舎に戻る気はなかったので、映画業界で全力投球していました。手がけた映画には「氷の微笑」や「レオン」など大ヒットした作品もあり、流行や社会現象が起きて面白かったです。にもかかわらず、29歳の時、突然「蔵に帰ろう」と。両親のほうが逆に驚いていましたね。

吉本:私の場合は、もともとはフリーのグラフィックデザイナーとして活動していました。「自分ならではのデザインを生かせる仕事をしたい」と考えていたからです。そこで、料理とお茶のマリアージュという、お茶を楽しむというライフスタイルそのものをデザインするという仕事に出会えました。

 家業とはいえ、尾畑さんは映画から日本酒という異業種に加えて、東京での華やかな仕事からいきなり佐渡に戻ることに抵抗はなかったんですか?

吉本桂子(よしもと・けいこ) ロイヤルブルーティージャパン社長。神奈川県藤沢市で生まれる。共立女子大学卒業後、グラフィックデザイナーとして活動。2006年5月、神奈川県藤沢市でティーサロン「茶聞香」を主宰する佐藤節男とともに、ロイヤルブルーティージャパンを創業。非加熱除菌による独自の茶抽出法を確立し水出し茶のボトリングに成功する。天皇皇后両陛下がご臨席された2010年5月の第61回全国植樹祭レセプションで採用、外務省の要請により2013年4月のアウン・サン・スー・チー氏の晩餐会にて乾杯利用拝命。13年6月、DBJ女性起業大賞(日本政策投資銀行主催)受賞。

尾畑:決めた当時は「やる」と決めているから、何も見えないんです。戻ってからですね、なかなかたいへんだな、と分かったのは。島は不便だし、狭い社会です。でも、「真野鶴」の輸出を通して、世界とつながったらそれまでデメリットだったと思っていたことがすべてメリットに変わりました。「東京をゴールにしない」。これが地方で生きる鍵だと思います。

お二人には女性経営者という共通項もあります。

尾畑:「女性経営者として」という質問をよく受けますが、あまり気にしたことはないです。 特に酒業界は男性が多いですが、やはり男女差より個人差かと。とは言え、最初はかなり異端児と見られたようです。業界の常識通りに動かない(笑)。 飲み手の市場を考えれば女性も随分増えていますし、今後は男女の消費スタイルに差がなくなってくるのではと感じています。

吉本:女性経営者ということについて、創業の頃は何か言われていたかもしれませんが、気付かなかったというか、相手にしていませんでした。生意気で申し訳ないけど。そもそも飲食サービス業界は男女差があまりないんです。事業モデルについても「女性目線で考えたのですか?」と言われますが、実は女性がターゲットというわけではありません。新工場では「予約制有料試飲」を体験できますが、考えているのは30~40代のヤングエグゼクティブが集う場です。それに合わせて内装も設計していますから、いわゆる「茶の間」のような長居できるような雰囲気はありません。お子様の年齢制限も設けるつもりでいます。

 こうした取り組みを女性経営者の会社があえてする、というのが鍵です。女性がさらに社会進出していくうえで私が感じているのが、ビジネスの飲食におけるシーンで、女性のマナーが未成熟だということです。活躍している男性と同じレベルで、もっと洗練された立ち居振る舞いになってほしい。見ていると、デスクワークでは男女の力に差はあまりなくても、飲食の場で勝敗が決まっているように思えることがあります。新工場のブティックは、このメッセージを発信する場所でもあります。