「お茶と料理のマリアージュがある」(吉本)

吉本:ロイヤルブルーティーは、逆ですね。高級日本茶には、茶葉に見合う急須、水質、お湯の温度、蒸らし時間などベストな淹れ方があります。でも、誰も上手に淹れられるわけではありません。そこで、東京でもニューヨークでもパリでも天空1万メートル上でも最高級の味を楽しめるよう、お茶の成分である「カテキン」「アミノ酸」「カフェイン」を劣化させないために、私たちの日本茶は茶葉を手摘みして3~7日間かけて水だけで抽出、加熱せずに除菌ろ過して充填しています。すべて手作業で、工程は国際基準であるSGS-HACCPコントロールです。栓と容器にはガラス製で遮光性の高いワインボトルを使い、冷蔵保存とし、賞味期限を設けているのです。

尾畑:そういった厳格な「型」や「様式美」を学ぶのが、お茶の作法なのですね。先ほど「お酒の変化が面白い」と言いましたが、その変化あるいはお酒の個性に合わせた飲み方を楽しむにも、やはり学びが必要です。知り合いの日本酒バーのオーナーが「ファッションに着こなしがあるように、日本酒もブランドに頼る前に飲みこなしを身につけることが大切」だと、うまいことをおっしゃっていました。

吉本:お茶もお酒も奥が深いですね。ところで、今の食事の様式は料理とお酒の組み合わせですが、そこには料理に合うお茶を最適な状態で出せなかったという背景もあるのではないでしょうか。でも、酒を飲まない人が世界の半分ぐらいはいます。その人たちが楽しめる様式を作りたいというのが願いです。

 というのも、私自身、お酒が弱いので料理とのマリアージュを知らずに過ごしていました。しかし、お茶と料理のマリアージュを味わって、それまでの食事が物足りなく感じるようになったのです。いつでもどこでも誰でも飲める高級茶があれば、料理のシーンでみんなが満足できるようになると信じています。

尾畑:マリアージュは注目ですが、その一方、味わい表現の乏しさを実感したりしませんか? 日本酒の味わい表現についても、「辛口」「甘口」「芳醇」「すっきり」をはじめとした型にはまった言葉が散らばっています。しかも、例えば「辛口」という言葉一つとっても、人によってその基準やイメージはバラバラです。そこで、日本酒の味わいを科学と感性でひもといていく取り組みを進めています。味わい表現を深化させて料理とのマリアージュに反映することで、新しい楽しみ方を生み出したい。

吉本:新しい需要を作り出せば、そこにビジネスも生まれます。1つ、事例を申し上げましょう。2012年から香港の高級日本料理店「天空龍吟」に、「ロイヤルブルーティー」が採用されています。この店では、アルコールを飲む方は、ペアリングを楽しむか、自分で持ち込むかというケースがほとんどだそうです。で、アルコールが飲めない方は、どうしていたか。白湯を頼んでいたんですって。そこで、高級茶のボトルを導入したところ、月に60本ほどは出るというぐらい受け入れられています。

 実は、経営面でも大きいんです。ノンアルコールのお客様が来店しても、きちんと売り上げを立てられるようになりますから。高級レストランには必ずお酒とのペアリングメニューが用意されているように、いずれは高級日本茶のペアリングメニューが当たり前になっているようにしたいですね。

吉本桂子(よしもと・けいこ)
ロイヤルブルーティージャパン社長。神奈川県藤沢市で生まれる。共立女子大学卒業後、グラフィックデザイナーとして活動。2006年5月、神奈川県藤沢市でティーサロン「茶聞香」を主宰する佐藤節男とともに、ロイヤルブルーティージャパンを創業。非加熱除菌による独自の茶抽出法を確立し水出し茶のボトリングに成功する。天皇皇后両陛下がご臨席された2010年5月の第61回全国植樹祭レセプションで採用、外務省の要請により2013年4月のアウン・サン・スー・チー氏の晩餐会にて乾杯利用拝命。13年6月、DBJ女性起業大賞(日本政策投資銀行主催)受賞。

日本酒や日本茶は、生産地や生産者を元気にするという役割も担っています。

吉本:私たちがお茶の葉を探すときに意識しているのは、土壌と作り手です。例えば、釜炒り緑茶「炒香(いりか)」は、6年かけて農家を選びました。もともとは、ソムリエさんから「透明な金色の緑茶があると、料理のペアリングの幅が広がるから作ってほしい」という強い要望があったんです。それで「こういうお茶を作りたい」といろいろな機会で話をしていたら、お茶の仲間から推薦がありました。

 それが、宮崎県五ヶ瀬町という、日本茶としてはあまり知られていない産地です。というのも、釜炒り緑茶は日本茶の中では主流ではないといった事情があります。ところが、この産地では30年間ぐらい、自分たちが作った堆肥で土壌改良した循環型の農業経営を実践していたんです。

 それほど価値がある産地ですから、お願いして手摘みを始めていただきました。機械摘みだと茶葉に傷がついてしまって、お茶にしたときに雑味が出てしまうのです。また、手摘みではたくさんの人を雇って、農業経営していくことになります。もちろん、対価はきちんと支払います。ここでは、農家の手伝いをして全国を回る夫婦や自分探しの若者、おじいちゃん、おばあちゃんといった老若男女が集まって茶摘みや草取りといった軽作業をこなしています。それも楽しみながら、です。人・物・金が回っているのを見て、日本茶もこういう農業経営がこれからのあるべき道だと確信しましたね。