モノリシック化が鍵

 しかし、マイクロLEDには大きな課題がある。LEDチップの実装コストである。チップの実装に時間がかかりすぎるのだ。

 例えば4Kディスプレーの場合を考える。画素数は3840×2160=829万4400画素である。1画素は赤(R)、緑(G)、青(B)の3つのサブ画素で構成するため、画素数の3倍、すなわち2488万3200個のLEDチップを並べることになる。

 現在のピック・アンド・プレース方式の実装装置でこれほど大量の微小なLEDチップを正確に並べようとすると「1000時間かかる」(Yoleでシニアアナリストを務めるエリック・ビレイ氏)という。日数に換算すると41日と、優に1カ月を超える。これでは極めて高価なディスプレーしか製造できない。

 この実装コスト問題の解決の鍵を握るのが「モノリシック化」である。モノリシック方式では、1枚のウエハー基板に3色のマイクロLEDを形成し、LEDアレーのままで、チップとして切り出すことなくディスプレーに使用する(図5)。こうすることで、RGB3色のマイクロLEDをそれぞれのウエハー基板に製造し、チップとして切り出してからディスプレー基板に実装する方法に改める。

実装問題を克服する
●図5 ナノコラムを利用したモノリシック型マイクロLED
同一基板上に、同一の材料で、さまざまな発光波長のマイクロLEDを形成できる。図は、InGaN(窒化インジウムガリウム)系ナノコラムを利用した例(①、②)。ナノコラムの直径を変えるだけで、所望の色の発光が得られる(③)
(写真提供=上智大学理工学部の岸野克巳教授の研究室)

日本独自の構造、製法で挑む

 こうしたモノリシック型のマイクロLEDディスプレーの開発で注目を集めているのが、上智大学理工学部の岸野克巳教授の研究室である。同研究室が開発しているのは、「ナノコラムLED」と呼ぶ柱状の発光素子の技術。特徴は、発光色によらず同一の材料を使えることである。

 色(波長)は発光素子の柱の径によって制御できる。従って、色ごとに発光素子を作り分けることなく、1枚の基板上に、1回の工程でさまざまな色の発光素子を作り込める。岸野氏らは、青、青緑、緑、黄の4色集積型のナノコラムLEDを試作し、発光を確認した。さらに、フルカラーディスプレーに必要な赤色についても発光が得られることを確認済みである。

 ナノコラムLEDは、化合物半導体基板に比べて安価で大口径のSi(シリコン)基板を使える利点もある。Siとは格子定数が大きく異なるGaN(窒化ガリウム)の発光素子を形成する場合でも、素子を数百ナノ(ナノは10億分の1)メートル径の柱状にすることで、結晶欠陥がほとんどない発光層が得られる。

 柱状の発光素子は、下地層に多数の穴が開いたTi(チタン)マスクを敷き、その上にGaN結晶を成長させることで形成する。Tiマスクは、低コストで加工できるナノインプリント法で製造可能なことを岸野氏らは実証している。

 17年9月の「第78回 応用物理学会 秋季学術講演会」で岸野氏は、ナノコラムLEDをマトリックス駆動した研究成果について述べた。マトリックス駆動ができると、ナノコラムLEDをディスプレーとして使えるようになる。モノリシック型マイクロLEDディスプレーとしての要素技術がそろってきたといえる。

 3色のLED画素が並んだ半導体上の映像を拡大投影すれば、壁ディスプレーや机ディスプレーを実現できる。照明のLED光源をこの半導体に置き換えれば、照明としても、壁ディスプレーの光源としても使えるようになる。「これまで開発してきた要素技術を組み合わせ、ディスプレーシステムとしての開発に挑戦したい」と岸野氏は意気込む。

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