たった数滴の血から13種類のがんを発見できるシステムの開発が進む。早期段階のがんも見つけられるのが特徴で、2018年度までの実用化を目指す。多くの命を救う可能性がある上、アルツハイマー病など認知症への転用も期待されている。
「血液検査の採血でがん検診ができるようになったのですが、実施しますか?」。あなたが勤務する会社や住んでいる自治体の健康診断で、こんな質問が当たり前になる日もそう遠くはないかもしれない。
厚生労働省によると日本人の死因第1位はがんで、全体の約3割ががんで命を落としているという。手術や抗がん剤など、がんが進行した後の治療方法は既に実用化されている。だが、がん細胞がまだ小さい早期段階で、確実にがんを見つけ出す方法は、いまだ確立されていない。これを実現できれば、多くの命を救える──。
国立がん研究センターや東レ、日本医療研究開発機構(AMED)など約20の企業・研究機関は、手軽に実施できる早期がん診断システムの共同開発プロジェクトを2014年に立ち上げた。
がんのある臓器を特定できない
健康診断の際には、コレステロール値や血糖値を調べるために採血をする。共同プロジェクトは、その「余り」程度の血液を使い、胃や肝臓など13種類のがんを早期に発見することを目指す。
がんは早く発見すればするほど、その後の生存率が高くなることで知られる。胃がんの場合、ステージⅠで発見できれば5年相対生存率は97.8%、ステージⅡになると66.7%、ステージⅢでは半分以下の49.1%まで落ち込む(下方の表「●がんの進行度ごとの5年相対生存率」参照)。
●早期発見を目指すがんの種類

現在、血液中の物質などに反応する40種類程度の腫瘍マーカーを使うことができる。だが、これらは早期のがんに反応しにくく、逆にがん以外の良性疾患や加齢に高い反応を示すことがあるという。そのため、ほとんどの腫瘍マーカーは、進行したがんを識別する用途にとどまっている。
がん診断で重要なのは、識別の精度が高いことと、そのがんがどの臓器にあるかを特定すること(臓器特異性)の2点にある。
がんを正確に診断できなければ、進行を招き、その人を命の危険にさらすことにつながる。逆に健康な人をがんだと診断してしまえば、その人に精神的ダメージを与えかねない。
がんがある部位を判別できなければ、特定するための追加検査が必要になる。この追加検査が一筋縄には行かない。肺がんならX線検査、乳がんならマンモグラフィー、などと部位ごとに異なる検査方法を用いるからだ。
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