ゴミを蒸し焼きして「ガス化」

 問題は極めて不均質であること。家庭から出される一般廃棄物には生ゴミ、紙類、ビニールなど雑多なものが入り交じっている。しかも季節や場所によってゴミの成分や組成は大きく変動する。このため資源として十分に活用できずにいた。結局、自治体がゴミを回収しても、埋め立てるか焼却処分するしかなかった。

 無論、ゴミを有効活用しようとする試みはこれまで様々あった。例えば、日立造船は11年度から熊本大学などと共同で、家庭ゴミの中から生ゴミと紙ゴミを選別し発酵処理によってエタノールを生産する実証実験に取り組んでいる。しかし、ゴミの選別コストが高いため、実用化できていない。

 他にも農業廃棄物からエタノールを生産する研究開発は海外でも行われているが、こちらも実用化にはほど遠い。種々雑多なゴミの中から工業原料として使えるゴミだけを分別して収集すると、割が合わなくなるからだ。

 積水化学はゴミを分別する手間を省くため「ガス化」に着目した。ゴミを低酸素状態で蒸し焼きして、分子レベルにまで分解していく。これにより家庭用の一般廃棄物や産業廃棄物も含め、可燃性ゴミなら大半を「一酸化炭素」と「水素」に変換できるようになった。

 ガス化プロセスは既に国内で普及しており、焼却効率を高めるため全国のゴミ処理施設の1割に採用されている。

 一酸化炭素(CO)と水素(H2)が作れれば、あと一歩。高温・高圧の環境で金属触媒と反応させれば、エタノール(C2H5OH)を製造できる。ただしここで新たな問題が生じる。多大なエネルギーを投入しなければならないので、経済的に見合わない。

 そこで積水化学は発想を転換。微生物の”エサ”として一酸化炭素と水素を用い、その代謝物としてエタノールを得ることにした。酵母でコメを発酵させて日本酒を造る仕組みと同様だ。

 苦労したのは最適な菌株を探し出すこと。世界中の大学や研究機関からエタノールを生成する微生物を独自に取り寄せ、評価を繰り返した。

10倍速くエタノールを生産

 最終的に米バイオベンチャーのランザテックが保有する微生物を選んだ。自然界から単離された微生物で、パン酵母などと同様に安全性が高い。一般的なエタノール生産菌と比べて10倍以上も速く、効率的にエタノールを生産できることが決め手となった。

 積水化学には、遺伝子組み換え技術で微生物を改変する選択肢もあった。生産効率が0.1%上がるだけでも工業レベルでは意味があるからだ。だが、遺伝子を組み換えた微生物が万が一、プラント外に漏れ出した際のリスクも考慮した。「プラント周辺の住民感情にも配慮して、開発段階から最終ゴールを意識してきた」と上ノ山氏は語る。

 ただし、微生物ならではの問題がある。多様なゴミをまるごとガス化して分別コストを圧縮するのが積水化学の強みだが、それと引き換えに、ガスには多くの夾雑物が残ってしまう。微生物のエサに夾雑物が混じっていると、エタノールの生産効率が落ち、最悪のケースでは微生物が死滅してしまう。

 そこでフィルターや触媒などを使って夾雑物を除去するプロセスを構築した。積水化学は詳細を明らかにしていないが、5~6段階のプロセスを経て400種の夾雑物をほぼ取り除くことに成功した。最適な条件を探し出すのに60回以上も試行錯誤を繰り返した。

 ゴミの組成は毎日変わる。ガス化して生成する一酸化炭素と水素の割合や、夾雑物の種類や量も変動する。そこで微生物の状態を外部からリアルタイムに監視して、最適な状態を保つ制御技術も確立した。微生物が弱ってくると“栄養剤”を投入して、再び活性化することもできるようになった。

 純度の高いエサと栄養剤を供給することで、微生物の反応速度を高レベルで維持できる。独自のガス精製・管理技術により連続生産が可能になったことが、大きなブレークスルーになった。関連する特許も既に取得している。