危うい監査機能

 品質面での監査については、本社に品質統括部と品質監査室を新設し内部監査を行うとしています。つまり品質監査室が第3のディフェンスラインの役割を担います。上に書いたように、監査は第3のディフェンスラインとして、執行部門と独立な立場で行うものです。事業部門に監査機能を置いてしまうと、事業部門レベルでの不正を監視できないからです。

 とくにアルミ・銅事業部門では、品質保証部の品質監査室が部門内監査の企画、実施、フォローなどを行うとしています。ここが監査を企画して実施するということは、監査機能が事業部門に支配されやすくなるかもしれません。この体制では第3のディフェンスラインの監視が効きにくくなります。

 さらに理解できないのは、各事業部門・事業所内の品質保証部署が抜き打ち監査を行うという対策です。これも執行部門と独立であるべき監査機能を事業所内にもたせることになるからです。

 この結果、監査機能が事業部門や配下の事業所に重複的に分散され、監査責任があいまいになるという危うさをはらんでいます。3重の監査体制は万全かというと、現場が関わっている限り逆効果です。

 再発防止策のリスクマネジメント上の問題点をまとめると、第2のディフェンスラインが不在なことと、監査機能の重複化によってその独立性が弱まる点に尽きます。全体として第1のディフェンスラインは強化されたものの、第2、第3のディフェンスラインが整備されたとはいえません。

コンプライアンス頼みの限界

 今の日本は、エリート官僚が公文書を改ざんし、東芝やオリンパスなど超名門企業の社長が不正会計の主役になる時代です。三菱自動車では社員が燃費不正の疑いを指摘しても、経営陣は真摯な対応を怠りました。

 にもかかわらず、神戸製鋼の品質保証は事業部門長や事業所長クラスのコンプライアンス頼みになっています。第2、第3のディフェンスラインを立て直すために思い切った対策を打つことが、信頼回復への課題といえるでしょう。(了)

著者/安岡孝司(やすおか・たかし)氏
芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授

1985年みずほ情報総研(旧富士総合研究所)入社。金融技術開発部部長などを経て、2009年から現職。社会人学生向けに企業リスク管理、企業財務、財務分析、金融工学などの講義・演習を担当。大阪大学理学部数学科卒、神戸大学大学院理学研究科修了、九州大学大学院理学研究科中退。博士(数理学)(九州大学)。欧米の学術論文誌2誌の編集委員。著書に『Interest Rate Modeling for Risk Management』(Bentham Science Publishers)、『債券投資のリスクとデリバティブ』(大学教育出版)、『市場リスクとデリバティブ』(朝倉書店)、『戦略的技術経営入門』(芙蓉書房出版、共著)などがある。

『企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?』
安岡孝司(著)/定価:1800円+税

企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?
企業不正の研究 リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

【目次】

【第1部】企業不正事件の報告書から学ぶ
[0]事件から学ぶための視点
[1]東洋ゴム工業の免震ゴムのデータ改ざん――開発力不足の問題
[2]富久娘酒造の表示偽装――技術力不足の問題
[3]神戸製鋼所の品質偽装 データの改ざん
[4]JXTGエネルギー水島製油所の虚偽検査記録――工場検査での問題
[5]三菱自動車の燃費不正――性能評価での不正
[6]椿本興業の循環取引――営業部門での不正
[7]オリンパスの粉飾決算――経営陣の不正
[8]東芝の不正会計――社長の圧力による執行部門での不正
[9]企業不正事件のまとめ

【第2部】クイズ形式で学ぶ リスクマネジメントの基本
[1]リスクマネジメントと経営判断
[2]リスクマネジメントの体制
[3]リスクマネジメントの限界
[4]リスクマネジメントの目的
[5]リスク評価の方法
[6]リスク評価と対策