安倍首相は推進派

安倍晋三首相は昨年11月の未来投資会議で遠隔診療について言及。医療関係者は診療報酬改定への期待を寄せている(写真=朝日新聞社)

 遠隔診療の事実上の解禁から1年半がたち、徐々にではあるが環境が整ってきた。2017年が「遠隔診療元年」になるかどうかは、2つの課題が避けて通れない。

 一つは診療報酬の問題だ。昨年11月、安倍晋三首相は未来投資会議において「ビッグデータや人工知能を最大限活用し、予防・健康管理や遠隔診療を進める」と発言している。2018年度の改定で対面診療と遠隔診療を同等に扱うことが決まれば、導入する医師は確実に増える。

 もう一つは、IoTやウエアラブル機器をいかに遠隔診療と組み合わせていくかだ。現在、体に装着してあらゆるデータを測定・送信できる技術の開発が進んでいる。例えば、東京医科歯科大学では、唾液から血糖値を測るマウスピース、涙からグルコースの含有量を測るコンタクトレンズを研究中だ。

 こうした新技術は遠隔診療の幅も広げていく。そのためには「遠隔診療では何をどこまでやってよいのか」というガイドラインの整備を早急に進めなければならない。

健康支援サービスの裾野は広い

 医師による遠隔診療以上に、スマホなどを使った健康支援サービスは拡大しそうだ。調査会社のシード・プランニングは、2020年度に関連の市場規模は現状の倍以上である114億円に成長すると予測する。遠隔での保険診療と自由診療を足した見込みが62億円(下のグラフ)。食事や運動の指導といった医療の一歩手前にあるサービスの方が裾野は広い。

3年で3倍になる可能性も
●遠隔診療の市場規模予測
出所:シード・プランニング

 下のグラフの通り、若い世代ほど運動不足が目立つ。潜在的な市場を狙って、数年前から多数の健康管理アプリが登場してきた。その大半は個人向けサービスであるため、開発企業は利用者の獲得で火花を散らす。そんな中でBtoB市場の開拓に力を入れてきたのが、FiNC(東京・千代田)だ。

現役世代は運動不足
●運動習慣のある人の年齢別比率
注:運動習慣とは、「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続」を指す
出典:厚生労働省「2015年国民健康・栄養調査」

 法人顧客は大企業の人事部や健康保険組合だ。企業側の狙いは従業員の生産性向上や離職率低下などにある。三井物産健康保険組合では35歳以上の組合員8400人がFiNCの健康増進プログラムを利用できる。遠隔診療と異なり、健康管理サービスでは制約が少ないため新技術も取り込みやすい。例えば、FiNCのアプリでは利用者からの健康相談に対してAI(人工知能)が回答する機能もある。

 明治安田生命保険は、FiNCとともに健康関連の新サービス開発に向けた共同実験を始めている。健康保険組合が開催する生活習慣改善キャンペーン参加者に歩数や睡眠時間を測れるウエアラブル端末を配布。アプリに蓄積されたデータの解析から生活習慣改善につながる事象を見つけるという。明治安田の薄井大輔・企画部イノベーション推進準備室主席スタッフは「予防医療分野の新規事業に結び付けたい」と語る。

(日経ビジネス2017年1月30日号より転載)