埼玉の医師は京都の半数

 経済協力開発機構(OECD)加盟国の人口1000人当たりの平均医師数は2.8人。日本の2.3人はオーストラリア(5.0人)の半分に満たない。

 絶対数の不足だけではなく、地域による偏りも目立つ(下の表参照)。埼玉県は、人口10万人当たりの医師数が全国トップの京都府のほぼ半分。麻酔科医の数は増えてきたのに、産婦人科や外科医の数は横ばいといった診療科別の偏在も生じている。

遠隔診療は「医療過疎」の解決につながる
●人口10万人当たりの医師数
出所:厚生労働省

 医師の偏在は難病の患者にとってより深刻だ。難病の専門医の多くは都市部の大学病院に勤めている。「とうきょうスカイツリー駅前内科(東京・墨田)」の金子俊之院長はかつて、都内の大学病院でリウマチ・膠原病診療に携わってきた。当時、地方から通院する患者もいたために遠隔診療の必要性を痛感。独立後は、積極的に取り組むようになった。

 だが、現状の遠隔診療の枠組みに限界も感じている。例えば、血液検査が必要な場合には対応できない。患者が最寄りの病院で採血し、その病院が血液データを都市部の病院に送る仕組みが確立していないからだ。

 診療以外でも不満はある。「医療事務が基本的に紙とハンコの世界であるため手を焼いている」(金子院長)。例えば、指定難病の医療費補助を受けるために必要な難病手帳への記入だ。遠隔で診察すると、病院側が手帳を受け取り、記入して返却するという作業を別途しなければならない。

 とうきょうスカイツリー駅前内科では事務員が特製のシールを用意し、それを患者に郵送する。受け取った患者はシールを手帳に貼り付ける。これを病院側の記入の代わりにしている。だが、難病手帳は発行する自治体によってサイズや記入方式が異なる。現状、患者ごとにシールを用意せざるを得ない。

 課題は1つずつ解決するしかないが、参考になる制度がある。数年前から一部の企業は薬局で健康チェックサービスを提供してきた。利用者は自ら店舗で血液を採取し、血液検査の結果を後日受け取るというものだ。

 サービス内の「簡易キットによる自己採血」は医師法違反と取り沙汰されたこともあったが、産業競争力強化法で定めた「グレーゾーン解消制度」によって「各関連法に抵触しない」という判断が下りた。遠隔診療においても課題を集約し、早期に解決することが必要になる。

 遠隔診療に潜在的なニーズがあるのは間違いないが、医師側にとって導入のインセンティブ(動機)は働きにくい。なぜならば、診療報酬の点数が対面に比べて低いからだ。

 外房こどもクリニックや新六本木クリニックはITベンチャー、メドレー(東京・港)が開発した遠隔診療アプリ「クリニクス」を活用している。医療機関が同社に支払うシステム利用料は月額3万円で、予約から問診、診療、決済まですべてオンラインで完結する。

 ポイントは、遠隔診療の際に予約料を徴収できること。外房こどもクリニックの場合、予約手数料として400円を設定した。病院に出かける手間、交通費、待ち時間から解放されるメリットを考えれば、妥当な水準と言っていいだろう。

 遠隔診療に取り組んでいる医師たちは「病院の経営を考えると対面診療だけの方が有利」と声をそろえる。そもそも、外房こどもクリニックやとうきょうスカイツリー駅前内科は、来院患者だけでも十分混み合っている。現状は、遠隔診療に意義を感じた医師によって何とか成り立っている。

限界集落での導入に課題

 それでも上記の3つのクリニックは遠隔診療を導入する上で環境に恵まれていると言える。とうきょうスカイツリー駅前内科の膠原病患者の多くは若い女性。外房こどもクリニックの患者の親も、多くは20~40代の子育て世代だ。スマホのアプリをダウンロードして、クレジットカード情報を入力することにさほど抵抗がない。新六本木クリニックに至っては土地柄、IT企業の社員が多い。

ポートが宮崎県日南市で取り組む実証実験の様子

 一方、限界集落のような高齢化が進む地域ではスマホを持たない患者も珍しくない。IT企業のポート(東京・新宿)は、2016年6月から宮崎県日南市と遠隔診療の実証実験を続けている。対象地域は厚労省が定める無医地区。従来は市中心部から医師が巡回していたが、病院の負担が大きかったという。

 実験に参加したある高齢の女性は、病院に通うのにバス3本を乗り継ぎ2時間もかかっていた。遠隔診療を希望する患者は、公民館などに設置されたタブレット端末越しに医師の問診を受ける。タブレットの操作などは看護師や事務職員が助ける。ポートの春日博文社長は「過疎地こそ遠隔診療が役立つ。実証実験で抽出した課題を、今後の改善に生かしたい」と意気込む。

 患者と医師を結ぶ遠隔診療以外でもスマホを活用した医師偏在の解消に向けたサービスが生まれている。

エクスメディオの「ヒポクラ」は、「DtoD」と呼ばれる医師同士を結び付けるサービスだ

 エクスメディオ(高知市)が運営する遠隔医療アプリ「ヒポクラ」は、「DtoD」と呼ばれる医師同士をつなげる仕組みだ。皮膚科や眼科の領域について質問すると、両科を専門とする医師が平均30分以内で回答する。

 事業の着想は、医師である物部真一郎社長の個人的な体験から得ている。精神科病棟で働いていた時、患者が目や皮膚の病気になったものの、院内に専門医がおらず苦労した。皮膚科や眼科の疾患の場合、スマホの画面を見れば症状を判断できる場合が多いため、ヒポクラを開発した。